2007年10月30日
プロジェクトは続いている。。。
実はまだこのプロジェクトは続いておりまして、今年度は「高齢者自立支援型マンションへのリフォームモジュールの応用開発業務」と言う業務委託を受託いたしました。
何故かアクセス数が急増しているので、ちょっと驚いているのですが。。。平成19年10月25日~27日の日曜日までモデルルームの公開をしておりました。これが原因では無いような気もするんですが・・・^^;とりあえづは次回のモデルルームの公開予告をこちらでも宣伝させてください。
日時:平成19年12月13日(木)~15日(土)の3日間
午前10時~午後4時まで公開致します。(12:00~13:00は昼休みです)
場所:ネオプラザ北仙台1021号室(10階です)
仙台市青葉区昭和町3-15(北警察署西隣りのマンションです)
ちなみに、今回は4回目です。まずはお知らせまで。。。。
何故かアクセス数が急増しているので、ちょっと驚いているのですが。。。平成19年10月25日~27日の日曜日までモデルルームの公開をしておりました。これが原因では無いような気もするんですが・・・^^;とりあえづは次回のモデルルームの公開予告をこちらでも宣伝させてください。
日時:平成19年12月13日(木)~15日(土)の3日間
午前10時~午後4時まで公開致します。(12:00~13:00は昼休みです)
場所:ネオプラザ北仙台1021号室(10階です)
仙台市青葉区昭和町3-15(北警察署西隣りのマンションです)
ちなみに、今回は4回目です。まずはお知らせまで。。。。
Posted by aya at
13:56
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2007年04月24日
最後に
今回の記事をもちまして、研究報告用の本ブログの更新を最後と致します。
先月末に、研究報告書提出を無事完了し、この本年度の委託事業が終了したことを受けての終了です。本研究にご協力をいただいた皆様、本ブログをご覧下さった皆様、本当にありがとうございました。
今回改修した物件は今後モデルルームとして公開し、アンケート調査を行うことで、社会のニーズに合ったものにブラッシュアップしていく予定です。今後も深松組、宮城高専建築学科本間研究室を中心に調査研究が継続されます。
そして本ブログは研究成果保存のためにも残します。
目次
◆ 研究背景・目的、実施体制はこちら
*プロジェクト概要(英語版) はこちら
Summary of this project
◆ 事業スタートまでの経緯はこちら
◆ 北欧視察
・視察先リスト(フィンランド 、スウェーデン・デンマーク)
・フィンランド 視察報告(1)~はこちら
・スウェーデン 視察報告(11)~はこちら
・デンマーク 視察報告(17)~はこちら
・視察総括 (考察・リフォームの参考とするべき要素)はこちら
◆ 成果報告(1)~はこちら
本研究を進めるにあたり、本当にたくさんの方々にお世話になりました。
視察計画を立てる際には、東北工業大学の石井敏先生をはじめ、京都府立大学、新潟大学の諸先生方に多くのアドバイスを頂きました。
また北欧視察を全面的にバックアップしていただいた仙台フィンランド健康福祉センターの皆様、FWBC Finland OyのHilkkaさん、視察を受け入れていただいた方々、現地でお世話になりました大原先生や通訳のテル・トシコさん、多くの方のご支援のおかげで視察を遂行することができました。
リフォーム案作成、施工に当たりましては㈱ジェー・シー・アイさんはじめ、多くの企業の方にご協力いただきました。
またこの「だてブログ」(旧ございん)さんにも、ブログのトップページにリンクを張って頂くなどご支援いただきました。
ありがとうございます。
そして各場面で心強いアドバイスをくださった宮城高専の本間敏行教授、課題分析やマーケット分析、模型制作などを担当していただいた本間研究室ゼミ生の梅津さん、加藤君、晴山君、そして最初から最後まで、この研究を支えていただいた谷村先生。本当にありがとうございました。
この研究を支援していただいた全ての皆様に、この場を借りて深く御礼申し上げます。
柳谷理紗
吉成安彌
*お知らせ
この度今回のリフォーム事例がNHKの取材を受けました。5/11(金)19:30~19:55“クローズアップみやぎ” で放送される予定となっています。ぜひご覧ください。
先月末に、研究報告書提出を無事完了し、この本年度の委託事業が終了したことを受けての終了です。本研究にご協力をいただいた皆様、本ブログをご覧下さった皆様、本当にありがとうございました。
今回改修した物件は今後モデルルームとして公開し、アンケート調査を行うことで、社会のニーズに合ったものにブラッシュアップしていく予定です。今後も深松組、宮城高専建築学科本間研究室を中心に調査研究が継続されます。
そして本ブログは研究成果保存のためにも残します。
目次
◆ 研究背景・目的、実施体制はこちら
*プロジェクト概要(英語版) はこちら
Summary of this project
◆ 事業スタートまでの経緯はこちら
◆ 北欧視察
・視察先リスト(フィンランド 、スウェーデン・デンマーク)
・フィンランド 視察報告(1)~はこちら
・スウェーデン 視察報告(11)~はこちら
・デンマーク 視察報告(17)~はこちら
・視察総括 (考察・リフォームの参考とするべき要素)はこちら
◆ 成果報告(1)~はこちら
本研究を進めるにあたり、本当にたくさんの方々にお世話になりました。
視察計画を立てる際には、東北工業大学の石井敏先生をはじめ、京都府立大学、新潟大学の諸先生方に多くのアドバイスを頂きました。
また北欧視察を全面的にバックアップしていただいた仙台フィンランド健康福祉センターの皆様、FWBC Finland OyのHilkkaさん、視察を受け入れていただいた方々、現地でお世話になりました大原先生や通訳のテル・トシコさん、多くの方のご支援のおかげで視察を遂行することができました。
リフォーム案作成、施工に当たりましては㈱ジェー・シー・アイさんはじめ、多くの企業の方にご協力いただきました。
またこの「だてブログ」(旧ございん)さんにも、ブログのトップページにリンクを張って頂くなどご支援いただきました。
ありがとうございます。
そして各場面で心強いアドバイスをくださった宮城高専の本間敏行教授、課題分析やマーケット分析、模型制作などを担当していただいた本間研究室ゼミ生の梅津さん、加藤君、晴山君、そして最初から最後まで、この研究を支えていただいた谷村先生。本当にありがとうございました。
この研究を支援していただいた全ての皆様に、この場を借りて深く御礼申し上げます。
柳谷理紗
吉成安彌
*お知らせ
この度今回のリフォーム事例がNHKの取材を受けました。5/11(金)19:30~19:55“クローズアップみやぎ” で放送される予定となっています。ぜひご覧ください。
Posted by aya at
15:18
│Comments(2)
2007年04月05日
成果報告(3) 応用編 -別物件での実践-
前回までの報告の通り、仙台市内のマンション一室において、高齢者が可能な限り自立して暮らすことのできる快適な住居を目指したマンションリフォームの提案を行ってきました。しかしこのモデルは、予算の制約上、必要最低限の部分的な改修にとどまっていました。
高齢者にとって快適な住環境を実現するためには、部分的ではなく全体的な整備を行う必要があります。そこで、別のマンションにおいて住居全体のリフォームを試み、高齢者用快適住居として提案しましす。
1.施工物件
名称 :ネオプラザ北仙台 1020号室 (図1、図2参照)
用途規模 :共同住宅10階
住所 :青葉区昭和町
住戸専用面積:67.47㎡
構造 :RC造
竣工 :昭和48年
当物件は、仙台市営バス北仙台停留所から徒歩3分、北仙台駅から徒歩5分未満でアクセスできる場所にある。公共交通機関に頼ることの多いと思われる高齢者にとって、交通の便の良いこの場所は好立地である。またスーパーSEIYUが徒歩3分圏にあることからも、都市型の生活を想定する上で相応しい立地条件であると言える。
マンション1階には保育園が入っており、世代間交流の機会が設けられることが期待される。またマンション向かいにはセントラルスポーツジムがあり、筋肉向上等のプログラムを受けることができるほか、マンション内部の廊下が内廊下となっており、回廊式で1周約100mの散歩も出来る環境である。
7:00~19:00の間は管理人が常駐している。何かが起こったときに対応してくれる人がいることは、高齢者の暮らしにとって大きな安心材料である。
以上のような条件から、当物件は都市型の生活を営む高齢者の快適住居モデルを提案するにあたり望ましいものである。
2.リフォームのコンセプト
高齢者が可能な限り自立した暮らしを続けることができ、かつ介護が必要になった場合にもスムーズに介護が提供されるような住居を目指し、リフォームのコンセプトを「動きたくなる部屋」とした。さらに、これを実現するための条件として以下の7点をあげ、これらに基づいてリフォーム内容を決定した。
「高齢になってからの豊かな生活のために」
(1)広くて快適なリビングの実現
(2)二重サッシの導入
「体が不自由になったときのための備えのために」
(3)トイレの拡張
(4)廊下幅の拡幅
(5)動作をサポートする補助器具の要所への設置、将来手摺が必要になった
場合に備えての下地の補強
(6)動作を許容する十分な広さの確保
(7)障害物(主に段差)の解消
3.具体的な改修内容と改修前後の様子
(1) リビング・ダイニング
【改修前】
壁の撤去、段差の解消、 ▼
二重サッシガラス窓の導入、 ▼
畳からフローリングへの張替え ▼
【改修後】
改修前には和室2室、洋室1室、ダイニングキッチンからなっていた部分を洋室1室のみとし、その中でリビング、ダイニング、キッチンを共有している。和室と洋室とをつなげることで2室分の採光を得られるようになり、広く(約22畳)明るいリビングを実現している。また車イスの使用が可能なよう、全面フローリング敷きとした。さらに和室と洋室の間にあった約15cmの段差を解消し、安全性と利便性を確保している。
窓ガラスには二重サッシを採用している。これにより高齢者の身体にとって負担の大きい温度差を緩和し、快適で安全なリビングを実現している。
(2) 洗面所、トイレ、浴室
【改修前】
壁の撤去、手すりの設置、 ▼
洗面台・便器の取替え、 ▼
引き戸の付け替え、浴槽の取替え、 ▼
【改修後】
水周りの改修においては、配管の関係上便器等の位置変更が不可能である。このため、トイレ・洗面所・脱衣室を一室にまとめ、それぞれの動作をゆったりと行え、負担が最小限になるよう配慮している。
トイレには補助器具として強度・デザイン性ともに優れたフィンランド製の洗面台を設置する。さらに、全体重を支えるのに十分な強度のある、可動式のフィンランド製の手すりを設ける。補助器具を設置することで、可能な限り自分の力で排泄をし続けられるよう促している。
浴室には広めのユニットバスを採用し、入浴介助や福祉用具の利用が可能な空間を確保するとともに、入浴動作が楽に行えるよう配慮している。また暖房乾燥機を導入することで居室と浴室との温度差を軽減し、高齢者の身体に負担の少ない入浴を実現している。
(3) 玄関・廊下
【改修前】
段差の解消、玄関と廊下の拡幅、 ▼
収納スペースの移動、 ▼
折り畳み式イスの設置 ▼
【改修後】
改修前と同様に30mm程度の段差があるがスロープにて解消、また折り畳みイスを設けることで靴の着脱動作を補助している。また収納スペースを移動させることにより、車イスでも不自由なく出入りすることができ、玄関での介助動作を行うのに十分な広さも確保されている。
(4) キッチン
【改修前】
▼
足元の開いたキッチンへの取替え ▼
▼
【改修後】
一般の流しユニットは車椅子を使用する高齢者にとって使いにくいため、足元の開いたキッチンを導入する。
(5) 寝室
介護用のベッドが2台設置でき、なおかつ介助できる広さを確保している。収納の扉を開き戸からスライド式のものへ変更し、腕力の低下した状態でも容易に開閉を行えるようにしている。また寝室とトイレの建具を引き戸とし位置を揃えることで、寝室からトイレへ直線的に移動することができ、スムーズな排泄行為をサポートしている。
(6) その他
建具はすべて引き戸へ変更し、車イス使用時や身体機能が低下した 場合にも容易に開閉できるよう配慮している。手すりは浴室やトイレ内部など最低限の箇所への設置にとどめており、必要が生じたときにスムーズに取り付けられるよう壁の下地補強を行っている。
図1 1020号室 平面図 (改修前)
図2 1020号室 平面図 (改修後)
高齢者にとって快適な住環境を実現するためには、部分的ではなく全体的な整備を行う必要があります。そこで、別のマンションにおいて住居全体のリフォームを試み、高齢者用快適住居として提案しましす。
1.施工物件
名称 :ネオプラザ北仙台 1020号室 (図1、図2参照)
用途規模 :共同住宅10階
住所 :青葉区昭和町
住戸専用面積:67.47㎡
構造 :RC造
竣工 :昭和48年
当物件は、仙台市営バス北仙台停留所から徒歩3分、北仙台駅から徒歩5分未満でアクセスできる場所にある。公共交通機関に頼ることの多いと思われる高齢者にとって、交通の便の良いこの場所は好立地である。またスーパーSEIYUが徒歩3分圏にあることからも、都市型の生活を想定する上で相応しい立地条件であると言える。
マンション1階には保育園が入っており、世代間交流の機会が設けられることが期待される。またマンション向かいにはセントラルスポーツジムがあり、筋肉向上等のプログラムを受けることができるほか、マンション内部の廊下が内廊下となっており、回廊式で1周約100mの散歩も出来る環境である。
7:00~19:00の間は管理人が常駐している。何かが起こったときに対応してくれる人がいることは、高齢者の暮らしにとって大きな安心材料である。
以上のような条件から、当物件は都市型の生活を営む高齢者の快適住居モデルを提案するにあたり望ましいものである。
2.リフォームのコンセプト
高齢者が可能な限り自立した暮らしを続けることができ、かつ介護が必要になった場合にもスムーズに介護が提供されるような住居を目指し、リフォームのコンセプトを「動きたくなる部屋」とした。さらに、これを実現するための条件として以下の7点をあげ、これらに基づいてリフォーム内容を決定した。
「高齢になってからの豊かな生活のために」
(1)広くて快適なリビングの実現
(2)二重サッシの導入
「体が不自由になったときのための備えのために」
(3)トイレの拡張
(4)廊下幅の拡幅
(5)動作をサポートする補助器具の要所への設置、将来手摺が必要になった
場合に備えての下地の補強
(6)動作を許容する十分な広さの確保
(7)障害物(主に段差)の解消
3.具体的な改修内容と改修前後の様子
(1) リビング・ダイニング
【改修前】
壁の撤去、段差の解消、 ▼
二重サッシガラス窓の導入、 ▼
畳からフローリングへの張替え ▼
【改修後】
改修前には和室2室、洋室1室、ダイニングキッチンからなっていた部分を洋室1室のみとし、その中でリビング、ダイニング、キッチンを共有している。和室と洋室とをつなげることで2室分の採光を得られるようになり、広く(約22畳)明るいリビングを実現している。また車イスの使用が可能なよう、全面フローリング敷きとした。さらに和室と洋室の間にあった約15cmの段差を解消し、安全性と利便性を確保している。
窓ガラスには二重サッシを採用している。これにより高齢者の身体にとって負担の大きい温度差を緩和し、快適で安全なリビングを実現している。
(2) 洗面所、トイレ、浴室
【改修前】
壁の撤去、手すりの設置、 ▼
洗面台・便器の取替え、 ▼
引き戸の付け替え、浴槽の取替え、 ▼
【改修後】
水周りの改修においては、配管の関係上便器等の位置変更が不可能である。このため、トイレ・洗面所・脱衣室を一室にまとめ、それぞれの動作をゆったりと行え、負担が最小限になるよう配慮している。
トイレには補助器具として強度・デザイン性ともに優れたフィンランド製の洗面台を設置する。さらに、全体重を支えるのに十分な強度のある、可動式のフィンランド製の手すりを設ける。補助器具を設置することで、可能な限り自分の力で排泄をし続けられるよう促している。
浴室には広めのユニットバスを採用し、入浴介助や福祉用具の利用が可能な空間を確保するとともに、入浴動作が楽に行えるよう配慮している。また暖房乾燥機を導入することで居室と浴室との温度差を軽減し、高齢者の身体に負担の少ない入浴を実現している。
(3) 玄関・廊下
【改修前】
段差の解消、玄関と廊下の拡幅、 ▼
収納スペースの移動、 ▼
折り畳み式イスの設置 ▼
【改修後】
改修前と同様に30mm程度の段差があるがスロープにて解消、また折り畳みイスを設けることで靴の着脱動作を補助している。また収納スペースを移動させることにより、車イスでも不自由なく出入りすることができ、玄関での介助動作を行うのに十分な広さも確保されている。
(4) キッチン
【改修前】
▼
足元の開いたキッチンへの取替え ▼
▼
【改修後】
一般の流しユニットは車椅子を使用する高齢者にとって使いにくいため、足元の開いたキッチンを導入する。
(5) 寝室
介護用のベッドが2台設置でき、なおかつ介助できる広さを確保している。収納の扉を開き戸からスライド式のものへ変更し、腕力の低下した状態でも容易に開閉を行えるようにしている。また寝室とトイレの建具を引き戸とし位置を揃えることで、寝室からトイレへ直線的に移動することができ、スムーズな排泄行為をサポートしている。
(6) その他
建具はすべて引き戸へ変更し、車イス使用時や身体機能が低下した 場合にも容易に開閉できるよう配慮している。手すりは浴室やトイレ内部など最低限の箇所への設置にとどめており、必要が生じたときにスムーズに取り付けられるよう壁の下地補強を行っている。
図1 1020号室 平面図 (改修前)
図2 1020号室 平面図 (改修後)
2007年03月22日
成果報告(2) 今後へ向けて
今回のプロジェクトの結果を受けて、このプロジェクトをさらに推進させるための課題と、高齢者の住環境向上における課題をまとめました。(報告書より抜粋)
1. リフォームモジュールの商品化にあたっての課題
(1) 予算の設定
300万円の費用設定では、高齢になって特に不自由を感じる水周りの改修が満足にできないことがわかった。また今回施工を行ったマンションは段差がほとんど問題とはならなかったが、建築年数が古い物件に関しては、段差解消の為に、更なる費用が増えると予想される。
風呂場の改修や、照明も含めた計画、壁の補強、使いやすいキッチンなどを実現するための理想の予算は、約700万円程度必要だと考えられる。今回の改修では最低限の改修だけにとどまり、残りは全てオプション(予算外)の提案となってしまった。
(2)福祉機器の導入コスト
フィンランドの福祉機器の考え方は非常に進んでおり、参考とされる事例である。しかし費用の面から考えて、必ずしもフィンランド製である必要はない。それよりも「高齢者の行動の流れを考えた設計」など計画を行う際の考え方を広め、安価で良い品質のものが日本で開発されることを促進することの方が重要である。
(3) モジュール化の難しさ
今回はトイレや風呂場、キッチンなどの水周りのコアが廊下を挟んで両側に展開していた。しかしそのコアが片側に固まっているものと今回の場合とでは提案内容が大きく異なる。またそれぞれのマンションによって細かい部分で条件が異なると考えられるため、更に多くの事例研究が必要であろう。
(4) 宣伝方法
それぞれのマンションによって間取りは異なるが、どのように宣伝をしていくか計画を立てる必要がある。一般向けにチラシやテレビコマーシャルを用いて宣伝するのか、もしくは企業への営業のみとするのか検討していく必要がある。
2. 高齢者の豊かな住生活のために
北欧視察を通じて発見した課題は、マンション一戸内での提案で解決できるものではない。高齢者の住環境の向上を図るには、社会全体を見据えた取組みが求められる。
まず一つに改修に関する制度・情報を手軽に得られる仕組みづくりが挙げられる。フィンランド のヘルシンキ工科大学内の研究機関「Sotera」(付録4 視察報告(7))では設計者がインターネットを通し条件を入力することにより、簡単にバリアフリー設計に関する寸法基準が求められる仕組みを作り出している。またマルメ市の事例(付録4 視察報告(11))では作業療法士のアドバイスと役所への申請が行われるため、適宜個々の状況に合った改修を行っていた。このように気軽に情報入手と改善が行える仕組みがあるということが、室内での事故を防ぎ、また高齢者能力維持に役立っている。
二つ目に、高齢者自身が地域との関わりを保ち続けることが必要である。視察中、介助者に話を聞いていると、「高齢者を孤独にさせないように気をつけている」と口々述べていた。またアクティビティセンターのような、身近に仲間と集まる場所があることによって積極的な行動につながる。そうしたなかで、この研究に関連し独自に改装を行ったネオプラザ北仙台は、今後新たな可能性をもつリフォーム例であろう。1階には保育園が入り、管理人も7:00~19:00まで常駐する。向かいにはスポーツクラブもあり筋肉向上のプログラムも受けることができる。このような都心の大規模なマンションで、付帯施設がある場合、元々存在するコミュニティを活用していくことができる。
三つ目に建築に当初からフレキシブルさを持たせることである。フィンランドではノーマライゼーションの理念が浸透しているため、新築される住宅は初めから高齢者・障害者へ対応している。ハンディのある人にとって住みやすい住まいは誰にとっても住みやすい、という考え方が根付いている。そのため後に改修の必要が生じることも少ない。日本においても、初めから多くの人にとって住みやすい住宅を建築していくべきである。
四つ目に共用空間の充実が挙げられる。フィンランドの集合住宅では、地下室や屋上などに共用設備として倉庫、洗濯室、乾燥室などが設けられている。そのため住戸内はほぼ全てが居住空間に使用される。面積の表示も、トイレ・バス等を除いた居室面積のみを表すのが一般的である。居住空間の豊かさが象徴されているようである。この点で、日本では(特に集合住宅では)収納スペースが十分に確保されていない面がある。居住空間の豊かさを実現するには、共用設備の充実を検討していくべきである。
以上を今回のプロジェクトの成果報告とします。
今回のリフォームは、予算の制約上、必要最低限の部分的な改修にとどまっています。しかし高齢者にとって快適な住環境を実現するためには、部分的ではなく全体的な整備を行う必要があります。
そこで、深松組所有の別物件において、マンション1戸全体のリフォームを試み、高齢者用快適住居として提案しています。
次回は、この計画と実施内容について報告します。
1. リフォームモジュールの商品化にあたっての課題
(1) 予算の設定
300万円の費用設定では、高齢になって特に不自由を感じる水周りの改修が満足にできないことがわかった。また今回施工を行ったマンションは段差がほとんど問題とはならなかったが、建築年数が古い物件に関しては、段差解消の為に、更なる費用が増えると予想される。
風呂場の改修や、照明も含めた計画、壁の補強、使いやすいキッチンなどを実現するための理想の予算は、約700万円程度必要だと考えられる。今回の改修では最低限の改修だけにとどまり、残りは全てオプション(予算外)の提案となってしまった。
(2)福祉機器の導入コスト
フィンランドの福祉機器の考え方は非常に進んでおり、参考とされる事例である。しかし費用の面から考えて、必ずしもフィンランド製である必要はない。それよりも「高齢者の行動の流れを考えた設計」など計画を行う際の考え方を広め、安価で良い品質のものが日本で開発されることを促進することの方が重要である。
(3) モジュール化の難しさ
今回はトイレや風呂場、キッチンなどの水周りのコアが廊下を挟んで両側に展開していた。しかしそのコアが片側に固まっているものと今回の場合とでは提案内容が大きく異なる。またそれぞれのマンションによって細かい部分で条件が異なると考えられるため、更に多くの事例研究が必要であろう。
(4) 宣伝方法
それぞれのマンションによって間取りは異なるが、どのように宣伝をしていくか計画を立てる必要がある。一般向けにチラシやテレビコマーシャルを用いて宣伝するのか、もしくは企業への営業のみとするのか検討していく必要がある。
2. 高齢者の豊かな住生活のために
北欧視察を通じて発見した課題は、マンション一戸内での提案で解決できるものではない。高齢者の住環境の向上を図るには、社会全体を見据えた取組みが求められる。
まず一つに改修に関する制度・情報を手軽に得られる仕組みづくりが挙げられる。フィンランド のヘルシンキ工科大学内の研究機関「Sotera」(付録4 視察報告(7))では設計者がインターネットを通し条件を入力することにより、簡単にバリアフリー設計に関する寸法基準が求められる仕組みを作り出している。またマルメ市の事例(付録4 視察報告(11))では作業療法士のアドバイスと役所への申請が行われるため、適宜個々の状況に合った改修を行っていた。このように気軽に情報入手と改善が行える仕組みがあるということが、室内での事故を防ぎ、また高齢者能力維持に役立っている。
二つ目に、高齢者自身が地域との関わりを保ち続けることが必要である。視察中、介助者に話を聞いていると、「高齢者を孤独にさせないように気をつけている」と口々述べていた。またアクティビティセンターのような、身近に仲間と集まる場所があることによって積極的な行動につながる。そうしたなかで、この研究に関連し独自に改装を行ったネオプラザ北仙台は、今後新たな可能性をもつリフォーム例であろう。1階には保育園が入り、管理人も7:00~19:00まで常駐する。向かいにはスポーツクラブもあり筋肉向上のプログラムも受けることができる。このような都心の大規模なマンションで、付帯施設がある場合、元々存在するコミュニティを活用していくことができる。
三つ目に建築に当初からフレキシブルさを持たせることである。フィンランドではノーマライゼーションの理念が浸透しているため、新築される住宅は初めから高齢者・障害者へ対応している。ハンディのある人にとって住みやすい住まいは誰にとっても住みやすい、という考え方が根付いている。そのため後に改修の必要が生じることも少ない。日本においても、初めから多くの人にとって住みやすい住宅を建築していくべきである。
四つ目に共用空間の充実が挙げられる。フィンランドの集合住宅では、地下室や屋上などに共用設備として倉庫、洗濯室、乾燥室などが設けられている。そのため住戸内はほぼ全てが居住空間に使用される。面積の表示も、トイレ・バス等を除いた居室面積のみを表すのが一般的である。居住空間の豊かさが象徴されているようである。この点で、日本では(特に集合住宅では)収納スペースが十分に確保されていない面がある。居住空間の豊かさを実現するには、共用設備の充実を検討していくべきである。
以上を今回のプロジェクトの成果報告とします。
今回のリフォームは、予算の制約上、必要最低限の部分的な改修にとどまっています。しかし高齢者にとって快適な住環境を実現するためには、部分的ではなく全体的な整備を行う必要があります。
そこで、深松組所有の別物件において、マンション1戸全体のリフォームを試み、高齢者用快適住居として提案しています。
次回は、この計画と実施内容について報告します。
2007年03月18日
成果報告(1) リフォーム実施結果
視察の総括と、施工完了を受け、この研究での成果をまとめ報告いたします。前回の記事「リフォーム施工完了」と重なる点もありますが、ご了承ください。
【改修前模型】 【改修後模型】
リビングや廊下幅等、全体的ゆとりが
ある空間、トイレの拡張が見て取れる。
具体的な改修コンセプトは以下の通りに設定しました。
「高齢になってからの豊かな生活のために」
・広くて快適なリビングの実現
・二重サッシの導入
「体が不自由になったときのための備えのために」
・トイレの拡張
・廊下幅の拡幅
・動作をサポートする補助器具の要所への設置
◆ 改修後の各スペースの改善内容について
(1)玄関
車イスを不自由なく使えるよう廊下を拡幅した。また玄関を拡幅するとともに、靴の着脱を補助するための折りたたみ式ベンチを設けた。
(2) トイレ
水周りの改修においては配管の位置変更は不可能であったが、そのなかで広い便所スペースを確保した。車イスで利用できるよう、また介助者が排泄介助を行えるよう、十分な面積を確保した。また、開き戸から引き戸への変更、便座両脇への手すりの設置により、できる限り自分の力で排泄を行えるよう補助している。
【玄関】 【トイレ】
(3) 寝室
ベッドが2台設置出来る広さを確保した。介助が必要となった場合でも対応できるよう廊下との仕切りは引き戸とし、開け放つことでスペースが確保できるようにした。
(4) キッチン
車イスを使いながら利用できるよう、足元のあいたキッチンを設置した。
また廊下・キッチン間の開口を広くし、スムーズな出入りができるよう配慮した。
(5) リビング
広く快適なリビングを目指して、洋室と和室を統一し全面フローリング張りとした。また南側に面するガラス戸には二重サッシを採用し、温度差の少ない快適なリビング(*断熱効果分析を参照)を実現した。
【キッチン】 【リビング】
◆ 断熱効果分析
二重サッシ導入前後での断熱効果を比較するため、同平面の導入前と導入後の室で温度測定を行った。3月11日の平均室内気温が、二重サッシ導入前の室で11.3℃、二重サッシ導入後では16.1℃となった。また最高・最低気温の振れ幅を比較すると、導入前が10・8~13.5℃(その差2.7度)、導入後で15.8~17.0度(その差1.2度)となった。
二重サッシを用いた室は温度差が非常に小さくなった。導入前の室と比較すると温度が明らかに異なり、効果があったといえる。温度差が小さくなることで高齢者の身体への負担が減るだけでなく、結露が起き難くなるなどメンテナンス面でも有益な結果となった。
次回は今後の方向性について報告をしたいと思います。
【改修前模型】 【改修後模型】
リビングや廊下幅等、全体的ゆとりが
ある空間、トイレの拡張が見て取れる。
具体的な改修コンセプトは以下の通りに設定しました。
「高齢になってからの豊かな生活のために」
・広くて快適なリビングの実現
・二重サッシの導入
「体が不自由になったときのための備えのために」
・トイレの拡張
・廊下幅の拡幅
・動作をサポートする補助器具の要所への設置
◆ 改修後の各スペースの改善内容について
(1)玄関
車イスを不自由なく使えるよう廊下を拡幅した。また玄関を拡幅するとともに、靴の着脱を補助するための折りたたみ式ベンチを設けた。
(2) トイレ
水周りの改修においては配管の位置変更は不可能であったが、そのなかで広い便所スペースを確保した。車イスで利用できるよう、また介助者が排泄介助を行えるよう、十分な面積を確保した。また、開き戸から引き戸への変更、便座両脇への手すりの設置により、できる限り自分の力で排泄を行えるよう補助している。
【玄関】 【トイレ】
(3) 寝室
ベッドが2台設置出来る広さを確保した。介助が必要となった場合でも対応できるよう廊下との仕切りは引き戸とし、開け放つことでスペースが確保できるようにした。
(4) キッチン
車イスを使いながら利用できるよう、足元のあいたキッチンを設置した。
また廊下・キッチン間の開口を広くし、スムーズな出入りができるよう配慮した。
(5) リビング
広く快適なリビングを目指して、洋室と和室を統一し全面フローリング張りとした。また南側に面するガラス戸には二重サッシを採用し、温度差の少ない快適なリビング(*断熱効果分析を参照)を実現した。
【キッチン】 【リビング】
◆ 断熱効果分析
二重サッシ導入前後での断熱効果を比較するため、同平面の導入前と導入後の室で温度測定を行った。3月11日の平均室内気温が、二重サッシ導入前の室で11.3℃、二重サッシ導入後では16.1℃となった。また最高・最低気温の振れ幅を比較すると、導入前が10・8~13.5℃(その差2.7度)、導入後で15.8~17.0度(その差1.2度)となった。
二重サッシを用いた室は温度差が非常に小さくなった。導入前の室と比較すると温度が明らかに異なり、効果があったといえる。温度差が小さくなることで高齢者の身体への負担が減るだけでなく、結露が起き難くなるなどメンテナンス面でも有益な結果となった。
次回は今後の方向性について報告をしたいと思います。
2007年03月15日
リフォーム施工完了
仙台市内のマンション一室において、モデルとなるリフォームの施工が完了しました。
リフォームのコンセプトである「動きたくなる部屋」を実現するための条件として以下の3点をあげ、これに基づいてリフォーム案を決定・施工しました。詳細については次回の更新で掲載したいと思います。今回は写真で概要のみ報告します。
①動作を許容する十分な広さがあること
②障害物(主に段差)がないこと
③動作をサポートする補助器具が要所に設けられていること
**********************************
1 玄関・廊下
車イスを不自由なく使えるよう廊下を拡幅した。また玄関を拡幅するとともに、靴の着脱を補助するための折りたたみ式ベンチを設けた。
【施工前】 【施工後】
2 キッチン
車イスを使いながら利用できるよう、足元のあいたキッチンを設置した。
また廊下・キッチン間の開口を広くし、スムーズな出入りができるよう配慮した。
【施工前】 【施工後】
3 リビング
広く快適なリビングを目指して、洋室と和室を統一し全面フローリング張りとした。また南側に面するガラス戸には二重サッシを採用し、温度差の少ない快適なリビングを実現した。
【施工前】 【施工後1】
【施工後2】 【施工後3】
4 トイレ
車イスで利用できるよう、また介助者が排泄介助を行えるよう、十分な面積を確保した。また、開き戸から引き戸への変更、便座両脇への手すりの設置により、できる限り自分の力で排泄を行えるよう補助している。
【施工前】 【施工後】
リフォームのコンセプトである「動きたくなる部屋」を実現するための条件として以下の3点をあげ、これに基づいてリフォーム案を決定・施工しました。詳細については次回の更新で掲載したいと思います。今回は写真で概要のみ報告します。
①動作を許容する十分な広さがあること
②障害物(主に段差)がないこと
③動作をサポートする補助器具が要所に設けられていること
**********************************
1 玄関・廊下
車イスを不自由なく使えるよう廊下を拡幅した。また玄関を拡幅するとともに、靴の着脱を補助するための折りたたみ式ベンチを設けた。
【施工前】 【施工後】
2 キッチン
車イスを使いながら利用できるよう、足元のあいたキッチンを設置した。
また廊下・キッチン間の開口を広くし、スムーズな出入りができるよう配慮した。
【施工前】 【施工後】
3 リビング
広く快適なリビングを目指して、洋室と和室を統一し全面フローリング張りとした。また南側に面するガラス戸には二重サッシを採用し、温度差の少ない快適なリビングを実現した。
【施工前】 【施工後1】
【施工後2】 【施工後3】
4 トイレ
車イスで利用できるよう、また介助者が排泄介助を行えるよう、十分な面積を確保した。また、開き戸から引き戸への変更、便座両脇への手すりの設置により、できる限り自分の力で排泄を行えるよう補助している。
【施工前】 【施工後】
2007年03月13日
視察の総括
前回の 「視察報告(18) Sophilund」 をもって北欧視察の報告は終了しました。
今回は、これらの視察を通して得られた考察と、それを受けて決定したリフォームコンセプト、そして具体的な施工案について報告します。
(1) 取り入れるべき要素
<キーワード>
1.・ ケアに関する考え方
2.・ 生活の質に対する高水準なセンス
3.・ 機能維持・機能回復への積極的な取組み
4.・ 排泄・入浴行為の重視
5・・ 生活全体を関連付けた設計
視察全体を通して感じられたのは、高齢者へのケアに対する理解の深さである。特にフィンランドでは、高齢者が自分でできることには手を出さず、ゆっくりと見守るという姿勢が重視されていた。自力でやり終えた時の喜びと自信とが、次の行動にトライするきっかけとなるからである。また、ケアスタッフは、日常生活の中で高齢者が体を動かす機会をできるだけ多く見つけ、生活動作を通して身体機能を維持・回復させようという意識を持っている。介助者の力に頼っていると、身体機能が衰えるばかりでなく認知症にもなりやすいからである。たとえ時間がかかろうとも、動作を見守り、高齢者の身体機能と意欲の向上を図っている。
さらに、資源の豊かさも自立を支えている。北欧諸国では、多種多様な補助器具が自治体から無償で提供され、生活のあらゆる場面で高齢者の動作をサポートしている。こうした物質的な資源の豊富さも、積極的に生活を営もうという高齢者の意欲を後押ししている。高齢者の自立支援を目指すにあたっては、こうしたケアの理念や補助器具の活用方法を取り入れていくべきである。
また、フィンランドでは孤独を苦にした高齢者の自殺が問題化したこともあり、高齢者に孤独を感じさせないよう、地域コミュニティの活動やサービスの整備を充実させている。社会的な繋がりを保つという意味でも、様々な活動の機会を身近に提供していくという事は重要である。
生活に対する意識が高いということも、視察中いたるところで感じられた。北欧の住生活が「豊か」であると評されるのは、こうしたハイレベルなセンスを個々人が持ち合わせているからであろう。高齢者施設において特に「豊かさ」を感じたのは、キッチンである。施設に暮らす高齢者のほとんどは自炊する事はない。しかし多くの施設では、各個室にはキッチンが備えられていた。それが実際に使われるか使われないかは問題ではなく、食を営む権利がそこに保障されている、ということが重要なのだと感じられた。
自分で食事を作るという選択肢が残されているということは、生活を自分自身でデザインする権利が守られているということだからである。
高齢者のケアを考える上で欠かせないのは、入浴・排泄の問題である。フィンランドでは、これに関して長年力を傾けてきた。排泄・入浴は、できれば介助者の手を借りずに自分で行いたいと思う行為であろう。これらの行為を自分で行うことは、自立していると感じ、自信を得る要因となる。逆に排泄行為が自立していないと、生活に消極的になってしまうという面もある。
こうしたことからフィンランドでは、できる限り自分の力を生かして排泄・入浴を行えるよう、バス・トイレユニットを開発してきた。そして、スウェーデンやデンマークと比較してより多くの人々が排泄行為の自立を果たしている。日本においても、排泄・入浴行為の自立をサポートする整備が本格的に進められるべきである。そうすることが、高齢者の身体的機能を維持することになり、健康寿命を増進させることにも繋がるのである。
最後に、建築的な配慮について触れたい。
1つめは、フィンランドではノーマライゼーションの理念が浸透しているため、新築される住宅は初めから高齢者・障害者へ対応しているということである。ハンディのある人にとって住みやすい住まいは誰にとっても住みやすい、という考え方が根付いている。そのため後に改修の必要が生じることも少ない。日本においても、初めから多くの人にとって住みやすい住宅を建築していくべきである。
一方で、改修の必要が生じた時には、作業療法士らにより改修や補助器具の利用について適切なアドバイスが得られ、自治体の全額負担で改修を行うことが出来る。
2つめは、手すりが途切れることなく伝い歩きできるよう設置する等、全体を関連付けて設計していることだ。このことはトイレ・バスの設計に関してだけではなく、居室全体を設計する際も配慮すべきことである。高齢者が手すり等を頼りながら自分の力で行動できるよう、その場での行動の流れを考え、設計・設置していくべきである。
(2) リフォームコンセプト
以上の視察結果を踏まえ、リフォームのコンセプトを「動きたくなる部屋」とする。
高齢者が自立して心身ともに健康に暮らしていくためには、
①「身体の機能を維持・回復すること」、
②「社会的繋がり(他者との繋がり)を保つこと」、
の2つが重要だと考えられる。
①の「身体の機能を維持・回復すること」については、2つの意義がある。1つは、生活動作を行うための身体機能を維持することで、できるだけ長い間自立した生活を営むことができるということである。
もう1つは、自分の力で生活動作を行うことにより自信を維持・回復するということである。他人の介助に頼らずに自分の力で動作を行うことで、自分は自立して生きていると感じ、自信が湧き、精神的なゆとりが生じてくると考えられる。さらにその自信が、②に挙げた「社会的繋がり」を築いていく積極的な意欲を招くと考えられる。
②の「社会的繋がりを保つこと」は、精神的な健康を保つために欠かせない要素である。長い間職場を通して社会と繋がっていた人々が、職を退くことで社会的な繋がりや役割を失い、孤立してしまうケースが往々にしてある。孤独を感じることは、特に高齢者の心身の健康にとっては好ましくない。こうしたことから、退職後にも何らかの形で社会と繋がりを持ち続けられる環境が重要であると考えられる。
以上のような視点から、自立支援型住宅とは、身体的機能の維持・回復と社会的繋がりの構築によって、高齢者の心身の健康をサポートする住宅であると考える。
では、「身体の機能を維持・回復すること」、「社会的繋がりを保つこと」の2つを実現するためにはどのような条件が求められるか、以下に示したい。
第一に、身体の機能の維持・回復を図るためには、まず、「自力で動きたい」という高齢者本人の積極的な意欲を引き出すことが必要であると考えられる。本人が、「動きたい」という意欲を持ってこそ、自分の力で動作を行う機会が増え、極力介助を減らしていくことができるからである。
またこうした取組みを継続的に繰り返すことにより、身体的機能をより向上させることが可能であると期待できる。
第二に、社会的繋がりを保つためには、他者とコミュニケーションを図りたいという欲求を喚起することが不可欠であると考えられる。この欲求を呼び起こすためには、趣味や得意分野の活動を促進し、それを他者と共有したいという気持ちを生じさせることが有効である。そして、こうした趣味などが活発化するためには、「活動したい」「動きたい」という活力が前提として必要となるものと考えられる。
こうした事から、住まう高齢者が「動きたい」と思わされる部屋、つまり「動きたくなる部屋」であることが、高齢者の自立支援型住宅の条件であると考えられる。
(3)具体的施工内容
具体的にどのような整備が必要であるか、ハード面とソフト面の両面から述べたい。まずハード面では、
①動作を許容する十分な広さがあること、
②障害物(主に段差)がないこと、
③動作をサポートする補助器具が要所に設けられていること、
が求められる。これらを満たすためには、廊下や居室の拡大、手すり等の補助器具の設置を行うことが有効である。なお、トイレにおいては車椅子で使用できるだけのスペースを確保することが必須である。
ソフト面では、
① 他者との関わりを持ちやすいこと、
② 自分の趣味を行い、表現する空間があること、
が必要である。このため、来客時を想定して動線や間取りを計画することや、キッチン内部を来客の目に触れさせないための工夫を行い、気軽に人を迎え入れやすい雰囲気をつくるべきである。また、空間に制約されずに趣味を楽しめるよう、十分なスペースを確保することも重要である。
以上のような具体策のうち、予算の制約上、高齢者の自立においてより重要であると思われるハード面の整備を優先させてリフォームモジュールを開発するものとする。
視察終了後は、以上のような考察に基いてリフォームモジュールの開発に取り組んできました。
そして先日、モデルとなる物件においてリフォームの施工が完了しました。
次回は画像を交えて施工完了の報告をしたいと思います。
今回は、これらの視察を通して得られた考察と、それを受けて決定したリフォームコンセプト、そして具体的な施工案について報告します。
(1) 取り入れるべき要素
<キーワード>
1.・ ケアに関する考え方
2.・ 生活の質に対する高水準なセンス
3.・ 機能維持・機能回復への積極的な取組み
4.・ 排泄・入浴行為の重視
5・・ 生活全体を関連付けた設計
視察全体を通して感じられたのは、高齢者へのケアに対する理解の深さである。特にフィンランドでは、高齢者が自分でできることには手を出さず、ゆっくりと見守るという姿勢が重視されていた。自力でやり終えた時の喜びと自信とが、次の行動にトライするきっかけとなるからである。また、ケアスタッフは、日常生活の中で高齢者が体を動かす機会をできるだけ多く見つけ、生活動作を通して身体機能を維持・回復させようという意識を持っている。介助者の力に頼っていると、身体機能が衰えるばかりでなく認知症にもなりやすいからである。たとえ時間がかかろうとも、動作を見守り、高齢者の身体機能と意欲の向上を図っている。
さらに、資源の豊かさも自立を支えている。北欧諸国では、多種多様な補助器具が自治体から無償で提供され、生活のあらゆる場面で高齢者の動作をサポートしている。こうした物質的な資源の豊富さも、積極的に生活を営もうという高齢者の意欲を後押ししている。高齢者の自立支援を目指すにあたっては、こうしたケアの理念や補助器具の活用方法を取り入れていくべきである。
また、フィンランドでは孤独を苦にした高齢者の自殺が問題化したこともあり、高齢者に孤独を感じさせないよう、地域コミュニティの活動やサービスの整備を充実させている。社会的な繋がりを保つという意味でも、様々な活動の機会を身近に提供していくという事は重要である。
生活に対する意識が高いということも、視察中いたるところで感じられた。北欧の住生活が「豊か」であると評されるのは、こうしたハイレベルなセンスを個々人が持ち合わせているからであろう。高齢者施設において特に「豊かさ」を感じたのは、キッチンである。施設に暮らす高齢者のほとんどは自炊する事はない。しかし多くの施設では、各個室にはキッチンが備えられていた。それが実際に使われるか使われないかは問題ではなく、食を営む権利がそこに保障されている、ということが重要なのだと感じられた。
自分で食事を作るという選択肢が残されているということは、生活を自分自身でデザインする権利が守られているということだからである。
高齢者のケアを考える上で欠かせないのは、入浴・排泄の問題である。フィンランドでは、これに関して長年力を傾けてきた。排泄・入浴は、できれば介助者の手を借りずに自分で行いたいと思う行為であろう。これらの行為を自分で行うことは、自立していると感じ、自信を得る要因となる。逆に排泄行為が自立していないと、生活に消極的になってしまうという面もある。
こうしたことからフィンランドでは、できる限り自分の力を生かして排泄・入浴を行えるよう、バス・トイレユニットを開発してきた。そして、スウェーデンやデンマークと比較してより多くの人々が排泄行為の自立を果たしている。日本においても、排泄・入浴行為の自立をサポートする整備が本格的に進められるべきである。そうすることが、高齢者の身体的機能を維持することになり、健康寿命を増進させることにも繋がるのである。
最後に、建築的な配慮について触れたい。
1つめは、フィンランドではノーマライゼーションの理念が浸透しているため、新築される住宅は初めから高齢者・障害者へ対応しているということである。ハンディのある人にとって住みやすい住まいは誰にとっても住みやすい、という考え方が根付いている。そのため後に改修の必要が生じることも少ない。日本においても、初めから多くの人にとって住みやすい住宅を建築していくべきである。
一方で、改修の必要が生じた時には、作業療法士らにより改修や補助器具の利用について適切なアドバイスが得られ、自治体の全額負担で改修を行うことが出来る。
2つめは、手すりが途切れることなく伝い歩きできるよう設置する等、全体を関連付けて設計していることだ。このことはトイレ・バスの設計に関してだけではなく、居室全体を設計する際も配慮すべきことである。高齢者が手すり等を頼りながら自分の力で行動できるよう、その場での行動の流れを考え、設計・設置していくべきである。
(2) リフォームコンセプト
以上の視察結果を踏まえ、リフォームのコンセプトを「動きたくなる部屋」とする。
高齢者が自立して心身ともに健康に暮らしていくためには、
①「身体の機能を維持・回復すること」、
②「社会的繋がり(他者との繋がり)を保つこと」、
の2つが重要だと考えられる。
①の「身体の機能を維持・回復すること」については、2つの意義がある。1つは、生活動作を行うための身体機能を維持することで、できるだけ長い間自立した生活を営むことができるということである。
もう1つは、自分の力で生活動作を行うことにより自信を維持・回復するということである。他人の介助に頼らずに自分の力で動作を行うことで、自分は自立して生きていると感じ、自信が湧き、精神的なゆとりが生じてくると考えられる。さらにその自信が、②に挙げた「社会的繋がり」を築いていく積極的な意欲を招くと考えられる。
②の「社会的繋がりを保つこと」は、精神的な健康を保つために欠かせない要素である。長い間職場を通して社会と繋がっていた人々が、職を退くことで社会的な繋がりや役割を失い、孤立してしまうケースが往々にしてある。孤独を感じることは、特に高齢者の心身の健康にとっては好ましくない。こうしたことから、退職後にも何らかの形で社会と繋がりを持ち続けられる環境が重要であると考えられる。
以上のような視点から、自立支援型住宅とは、身体的機能の維持・回復と社会的繋がりの構築によって、高齢者の心身の健康をサポートする住宅であると考える。
では、「身体の機能を維持・回復すること」、「社会的繋がりを保つこと」の2つを実現するためにはどのような条件が求められるか、以下に示したい。
第一に、身体の機能の維持・回復を図るためには、まず、「自力で動きたい」という高齢者本人の積極的な意欲を引き出すことが必要であると考えられる。本人が、「動きたい」という意欲を持ってこそ、自分の力で動作を行う機会が増え、極力介助を減らしていくことができるからである。
またこうした取組みを継続的に繰り返すことにより、身体的機能をより向上させることが可能であると期待できる。
第二に、社会的繋がりを保つためには、他者とコミュニケーションを図りたいという欲求を喚起することが不可欠であると考えられる。この欲求を呼び起こすためには、趣味や得意分野の活動を促進し、それを他者と共有したいという気持ちを生じさせることが有効である。そして、こうした趣味などが活発化するためには、「活動したい」「動きたい」という活力が前提として必要となるものと考えられる。
こうした事から、住まう高齢者が「動きたい」と思わされる部屋、つまり「動きたくなる部屋」であることが、高齢者の自立支援型住宅の条件であると考えられる。
(3)具体的施工内容
具体的にどのような整備が必要であるか、ハード面とソフト面の両面から述べたい。まずハード面では、
①動作を許容する十分な広さがあること、
②障害物(主に段差)がないこと、
③動作をサポートする補助器具が要所に設けられていること、
が求められる。これらを満たすためには、廊下や居室の拡大、手すり等の補助器具の設置を行うことが有効である。なお、トイレにおいては車椅子で使用できるだけのスペースを確保することが必須である。
ソフト面では、
① 他者との関わりを持ちやすいこと、
② 自分の趣味を行い、表現する空間があること、
が必要である。このため、来客時を想定して動線や間取りを計画することや、キッチン内部を来客の目に触れさせないための工夫を行い、気軽に人を迎え入れやすい雰囲気をつくるべきである。また、空間に制約されずに趣味を楽しめるよう、十分なスペースを確保することも重要である。
以上のような具体策のうち、予算の制約上、高齢者の自立においてより重要であると思われるハード面の整備を優先させてリフォームモジュールを開発するものとする。
視察終了後は、以上のような考察に基いてリフォームモジュールの開発に取り組んできました。
そして先日、モデルとなる物件においてリフォームの施工が完了しました。
次回は画像を交えて施工完了の報告をしたいと思います。
2007年03月03日
視察報告(18) Sophilund
所在地 デンマークHorsholm市(人口2万4000人)
訪問日時 2006年9月1日
案内者 アクティビティセンター所長 Dan Poulsen氏
URL: www.sophielund.horsholm.dk(デンマーク語のみ)
1. 施設概要
デンマークから北部へ電車で30分程行ったHorsholm市に位置する。地区全体をみると、この地区には他にもう一つアクティビティセンターがあり、3つのナーシングホーム、1つのデイサービスセンターがある。
Sophielundは、アクティビティハウスと認知症(痴呆)高齢者グループホーム、高齢者住宅(図2)を持ち、在宅ケアステーションの機能も持ち合わせる。視察当時、第三期目となるグループホームの建設が進められていた。
<建設の状況>
・1991年(第一期) アクティビティハウス、テラスハウス
・1995年(第二期) 低層集合住宅4棟(3F) グループホーム(8人×3unit)
・2006年(第三期) 認知症高齢者向けグループホーム(9人×4unit)
図1 敷地図 図2 高齢者住宅への入り口
2. ケアの提供体制
・認知症高齢者のグループホーム
各ユニット(入居者8人)に対して、日中は3人、夜間は2人のスタッフがついている。ケアの内容は、食事の提供、食事介助、入浴・排泄介助など、日常生活上のほぼすべてにわたっている。
・高齢者住宅
高齢者住宅の入居者はほぼ自立しているため、ほぼスタッフの出番はない。緊急時にすぐに駆けつけられるために、ナースが敷地内を車で循環して見回っている。
・アクティビティハウス
80人のボランティアにより多種多様な活動が行われている。スタッフはわずか4名であり、ボランティアが中心となって活動を支えている。
3. 入居者の状態
・認知症高齢者のグループホーム
入居しているのは、認知症のために日常的に介護を要する人たちである。グループホームの入居者は全員が排泄ケアを必要としている。
・高齢者住宅
入居者は、身体に大きな不自由がなく、ほぼ自立して生活できる人たちである。自分で食事をつくり、一般の住宅で暮らすのと同様に暮らしている。単身者向けの部屋と、夫婦世帯向けの住宅が合計121戸ある。
・アクティビティハウス
利用者は、近隣の自宅に住んでいる高齢者や、高齢者住宅の入居者が主である。
4. 日中活動
アクティビティセンターでは歌や手芸、絵画、ビンゴ、レクチャー、ダンスなどでき、多くのワークショップ、ジム、コンピューターなどの活動がある。ビュッフェ形式の食堂もある。高齢者住宅の住人が食事をすることもあるが8割は外部からの利用者という。
図3 食堂の様子 図4 裁縫や工作、絵画が行われる
5.建築的特徴
・認知症高齢者グループホーム
すべての室内(図5)にはコーヒーを飲む程度の小さいキッチンと、寝室、お風呂がついてる。廊下で3つのユニットが繋がっており、新たに建設中の建物も連結され内部廊下を通じて歩いていける。ユニット中央のスペースには共同のダイニング、リビング゙、キッチンがあり日中はここで過ごしている。共用空間(図6)には絵やピアノ、小鳥までもいた。これらは全てこれまでの入居者が置いていったものということである。それらがあることで、家のような温かな雰囲気が作られていた。
外部につながるドアの鍵が上部と下部の両方を使わないと開かないという、コツの必要なものであった。痴呆性高齢者に対する安全面の配慮として、職員が共にいないと外に出られない工夫である。
・高齢者住宅
平屋建て、2階建て、3階建の住宅がアクティビティセンターを囲むようにあり、3階建の棟全てにエレベータが設えられている。(「高齢者及び障害者住宅法」における高齢者住宅の建築基準で、「2階以上の建物にはエレベーターを設置」と示されている)
エントランスのドア(図7)の色が部屋ごとに違くなっている。それでいて一定の色(図8)が使われているためか統一感があった。
図5 グループホームの一室 図6 共用空間のアルコーブには
ボードゲームなどがおかれ、
多くのの溜まり場があった。
図7 それぞれ異なるドアの色 図8 青色が壁の多くに用いられていた
6.考察
痴呆性高齢者のグループホームが全て平屋建てであったのは、スタッフの動きやすさ、夜間においてはスタッフが少ないため容易に往来できる為、入居者がリハビリのために歩く為である。高齢者住宅においてはエレベータの設置など、歩行困難になった場合においても住宅へのアクセスが可能な配慮がされると共に、介助がすぐに呼び出せるような体制であった。
このように高齢者がバリアを感じず歩き回れる構造と、介護サービスの体制が十分に整えられていた。両者がそろっていることで、真の安心が得られるのだろう。
以上のことがが基本的な条件であり、それをさらに豊かに感じさせていたのは、光を多く取り入れる空間の造りや、手入れされた緑豊かな敷地(図9)、外部からの利用者が訪れる賑わいであった。それは高齢者が、外とつながりを持ちやすい要素であると考える。
図9、10 敷地の様子
訪問日時 2006年9月1日
案内者 アクティビティセンター所長 Dan Poulsen氏
URL: www.sophielund.horsholm.dk(デンマーク語のみ)
1. 施設概要
デンマークから北部へ電車で30分程行ったHorsholm市に位置する。地区全体をみると、この地区には他にもう一つアクティビティセンターがあり、3つのナーシングホーム、1つのデイサービスセンターがある。
Sophielundは、アクティビティハウスと認知症(痴呆)高齢者グループホーム、高齢者住宅(図2)を持ち、在宅ケアステーションの機能も持ち合わせる。視察当時、第三期目となるグループホームの建設が進められていた。
<建設の状況>
・1991年(第一期) アクティビティハウス、テラスハウス
・1995年(第二期) 低層集合住宅4棟(3F) グループホーム(8人×3unit)
・2006年(第三期) 認知症高齢者向けグループホーム(9人×4unit)
図1 敷地図 図2 高齢者住宅への入り口
2. ケアの提供体制
・認知症高齢者のグループホーム
各ユニット(入居者8人)に対して、日中は3人、夜間は2人のスタッフがついている。ケアの内容は、食事の提供、食事介助、入浴・排泄介助など、日常生活上のほぼすべてにわたっている。
・高齢者住宅
高齢者住宅の入居者はほぼ自立しているため、ほぼスタッフの出番はない。緊急時にすぐに駆けつけられるために、ナースが敷地内を車で循環して見回っている。
・アクティビティハウス
80人のボランティアにより多種多様な活動が行われている。スタッフはわずか4名であり、ボランティアが中心となって活動を支えている。
3. 入居者の状態
・認知症高齢者のグループホーム
入居しているのは、認知症のために日常的に介護を要する人たちである。グループホームの入居者は全員が排泄ケアを必要としている。
・高齢者住宅
入居者は、身体に大きな不自由がなく、ほぼ自立して生活できる人たちである。自分で食事をつくり、一般の住宅で暮らすのと同様に暮らしている。単身者向けの部屋と、夫婦世帯向けの住宅が合計121戸ある。
・アクティビティハウス
利用者は、近隣の自宅に住んでいる高齢者や、高齢者住宅の入居者が主である。
4. 日中活動
アクティビティセンターでは歌や手芸、絵画、ビンゴ、レクチャー、ダンスなどでき、多くのワークショップ、ジム、コンピューターなどの活動がある。ビュッフェ形式の食堂もある。高齢者住宅の住人が食事をすることもあるが8割は外部からの利用者という。
図3 食堂の様子 図4 裁縫や工作、絵画が行われる
5.建築的特徴
・認知症高齢者グループホーム
すべての室内(図5)にはコーヒーを飲む程度の小さいキッチンと、寝室、お風呂がついてる。廊下で3つのユニットが繋がっており、新たに建設中の建物も連結され内部廊下を通じて歩いていける。ユニット中央のスペースには共同のダイニング、リビング゙、キッチンがあり日中はここで過ごしている。共用空間(図6)には絵やピアノ、小鳥までもいた。これらは全てこれまでの入居者が置いていったものということである。それらがあることで、家のような温かな雰囲気が作られていた。
外部につながるドアの鍵が上部と下部の両方を使わないと開かないという、コツの必要なものであった。痴呆性高齢者に対する安全面の配慮として、職員が共にいないと外に出られない工夫である。
・高齢者住宅
平屋建て、2階建て、3階建の住宅がアクティビティセンターを囲むようにあり、3階建の棟全てにエレベータが設えられている。(「高齢者及び障害者住宅法」における高齢者住宅の建築基準で、「2階以上の建物にはエレベーターを設置」と示されている)
エントランスのドア(図7)の色が部屋ごとに違くなっている。それでいて一定の色(図8)が使われているためか統一感があった。
図5 グループホームの一室 図6 共用空間のアルコーブには
ボードゲームなどがおかれ、
多くのの溜まり場があった。
図7 それぞれ異なるドアの色 図8 青色が壁の多くに用いられていた
6.考察
痴呆性高齢者のグループホームが全て平屋建てであったのは、スタッフの動きやすさ、夜間においてはスタッフが少ないため容易に往来できる為、入居者がリハビリのために歩く為である。高齢者住宅においてはエレベータの設置など、歩行困難になった場合においても住宅へのアクセスが可能な配慮がされると共に、介助がすぐに呼び出せるような体制であった。
このように高齢者がバリアを感じず歩き回れる構造と、介護サービスの体制が十分に整えられていた。両者がそろっていることで、真の安心が得られるのだろう。
以上のことがが基本的な条件であり、それをさらに豊かに感じさせていたのは、光を多く取り入れる空間の造りや、手入れされた緑豊かな敷地(図9)、外部からの利用者が訪れる賑わいであった。それは高齢者が、外とつながりを持ちやすい要素であると考える。
図9、10 敷地の様子
2007年02月24日
視察報告(17) Rojøieparken
所在地 デンマーク ネストベ市
訪問日時 2006年8月31日
同行者 Anneさん(施設職員)
Martin Tangeさん(ネストベ市職員)
1.施設概要
居室数 54室(6室×2棟、7室×4棟、8室×3棟)
(70名入居可能で、60名入居中)
開所年次 2002年
2.サービス・ケアの提供体制
各棟(6~8室)ごとに、日中は2,3人、夜間は1人のスタッフがついている。もっと多くのスタッフが必要だが、コストが高すぎるために増やせないという。スタッフが日常的な介助を行うほか、定期的に理学療法士や歯医者、美容師、フットケアの専門家などが訪れ、入居者にサービスを提供している。これらのサービスは、施設側へ料金を支払えば誰でも自由に利用できるため、外出しづらい入居者たちに好評のようである。
3.入居者の状態
60名の入居者はみな自宅で暮らすのが困難な人たちである。介助・介護の度合いは人それぞれであるが、比較的軽度の人は、自分で洗濯をしたり、自分の好きな場所で好きな相手と食事を摂ったりと、自分のペースで生活しているようである。
ショートステイも行っているため、短期間のみ入居する在宅の高齢者もいる。また、病院から退院した後に、自宅へ戻るためのトレーニングを行っている入居者もいる。さらに、地域に住む高齢者がトレーニング施設を利用しに来る姿も見られる。
4.日中活動
多様なアクティビティが用意されている。例えば地域学、工作、絵画、歌や踊りなどがあり、入居者の要望に合わせて変動する。アクティビティのメニューは玄関前にわかりやすく掲示されていた(写真1)。外部からトレーニングをしにきた人がコーヒーを飲めるカフェも入り口近くに設けられるなど、気軽に利用できる雰囲気である。
写真1 アクティビティの週間予定表 写真2 絵画専用の工作室
図1 配置図 写真3 各棟をつなぐ外部廊下
5.建築的特徴
施設は分棟配置になっている(図1)。アクティビティセンターの奥に入居者の棟が9つあり、それらは外部廊下でつながれている(写真3)。すべてが平屋建てで非常に明るく地域に開かれている印象を受けた。また施設内から見える景色が美しかった。アクティビティセンターの廊下には多くの絵が飾られていた(写真4)。アルコーブの空間にトレーニング機器や、事務所、ソファなどが置かれた空間がある。棟の入り口一つ一つが家庭の玄関のような設えで、内部は直線状に各室が並び、一番奥にキッチンやダイニングがある(写真5、6)。個室の家具はほぼ個人の持ち物であるという。夫婦用の部屋もあり、そこには視線が仕切れる可動式のパーテーションが備えられていた(写真6)。
写真4 絵画。一部は購入可能である 写真5 ダイニング。広々として明るい。
写真6 職員が食事を作るキッチン。 写真7 天井から吊るタイプの仕切り。
6.考察
この施設は新しいためか、明るく広々とした作りが印象的であった。そして、これまで訪問した施設と決定的に異なるのは、すべて平屋建てである点である。ネストベ市内の住宅も平屋建てのものが目だった。長く住み続けることを前提とし、そうした構造にしているのであろう。自宅に住み続けることに対する意識、将来の変化に耐えうる建築を作るという意識の高さをうかがうことができる。
ここネストベ市は、在宅の高齢者を支えるシステムが優れていることで有名である。日本とは比べ物にならないほどの数の訪問介護・看護スタッフがおり、頻繁に高齢者の自宅を訪問している。
この施設はそうしたスタッフの拠点の一つで、それぞれの活動状況を共有するためのカードが設けられている(写真8)。こうしたネットワークが、高齢化率14.7%の町の在宅生活を保障している。
写真8 スタッフの活動状況を示す表
訪問日時 2006年8月31日
同行者 Anneさん(施設職員)
Martin Tangeさん(ネストベ市職員)
1.施設概要
居室数 54室(6室×2棟、7室×4棟、8室×3棟)
(70名入居可能で、60名入居中)
開所年次 2002年
2.サービス・ケアの提供体制
各棟(6~8室)ごとに、日中は2,3人、夜間は1人のスタッフがついている。もっと多くのスタッフが必要だが、コストが高すぎるために増やせないという。スタッフが日常的な介助を行うほか、定期的に理学療法士や歯医者、美容師、フットケアの専門家などが訪れ、入居者にサービスを提供している。これらのサービスは、施設側へ料金を支払えば誰でも自由に利用できるため、外出しづらい入居者たちに好評のようである。
3.入居者の状態
60名の入居者はみな自宅で暮らすのが困難な人たちである。介助・介護の度合いは人それぞれであるが、比較的軽度の人は、自分で洗濯をしたり、自分の好きな場所で好きな相手と食事を摂ったりと、自分のペースで生活しているようである。
ショートステイも行っているため、短期間のみ入居する在宅の高齢者もいる。また、病院から退院した後に、自宅へ戻るためのトレーニングを行っている入居者もいる。さらに、地域に住む高齢者がトレーニング施設を利用しに来る姿も見られる。
4.日中活動
多様なアクティビティが用意されている。例えば地域学、工作、絵画、歌や踊りなどがあり、入居者の要望に合わせて変動する。アクティビティのメニューは玄関前にわかりやすく掲示されていた(写真1)。外部からトレーニングをしにきた人がコーヒーを飲めるカフェも入り口近くに設けられるなど、気軽に利用できる雰囲気である。
写真1 アクティビティの週間予定表 写真2 絵画専用の工作室
図1 配置図 写真3 各棟をつなぐ外部廊下
5.建築的特徴
施設は分棟配置になっている(図1)。アクティビティセンターの奥に入居者の棟が9つあり、それらは外部廊下でつながれている(写真3)。すべてが平屋建てで非常に明るく地域に開かれている印象を受けた。また施設内から見える景色が美しかった。アクティビティセンターの廊下には多くの絵が飾られていた(写真4)。アルコーブの空間にトレーニング機器や、事務所、ソファなどが置かれた空間がある。棟の入り口一つ一つが家庭の玄関のような設えで、内部は直線状に各室が並び、一番奥にキッチンやダイニングがある(写真5、6)。個室の家具はほぼ個人の持ち物であるという。夫婦用の部屋もあり、そこには視線が仕切れる可動式のパーテーションが備えられていた(写真6)。
写真4 絵画。一部は購入可能である 写真5 ダイニング。広々として明るい。
写真6 職員が食事を作るキッチン。 写真7 天井から吊るタイプの仕切り。
6.考察
この施設は新しいためか、明るく広々とした作りが印象的であった。そして、これまで訪問した施設と決定的に異なるのは、すべて平屋建てである点である。ネストベ市内の住宅も平屋建てのものが目だった。長く住み続けることを前提とし、そうした構造にしているのであろう。自宅に住み続けることに対する意識、将来の変化に耐えうる建築を作るという意識の高さをうかがうことができる。
ここネストベ市は、在宅の高齢者を支えるシステムが優れていることで有名である。日本とは比べ物にならないほどの数の訪問介護・看護スタッフがおり、頻繁に高齢者の自宅を訪問している。
この施設はそうしたスタッフの拠点の一つで、それぞれの活動状況を共有するためのカードが設けられている(写真8)。こうしたネットワークが、高齢化率14.7%の町の在宅生活を保障している。
写真8 スタッフの活動状況を示す表
2007年01月25日
視察報告(16) KILDERARKSCENTRET
所在地 デンマーク ネストベ市
訪問日時 2006年8月31日
案内者 Pia Mortensenさん(施設職員の女性)
同行者 Martin Tangeさん(ネストベ市職員)
駅から車で30分ほど行ったところにKILDERARKSCENTRETはある。住宅地の中に立地し、2002年に開所した新しい建物である。ネストべ市にはこのような施設を5つ存在するという。その新しさ故、まだソフト面が十分に整っていない印象が大きかった。
図1 2階建ての棟より。 図2 施設の模型。
奥にはのどかな風景が広がる。 1棟を除く4棟が平屋建てである。
1. 施設概要
居室数 80戸 (11戸×4ユニット,12戸,24戸)
(一部は夫婦用の2人部屋。それ以外はすべて個室。)
開所年次 2002年
介護職員数 約90名
2. サービス、ケアの提供体制
ケアは1日3交替、24時間体制で行われている。介護職員らは7:00~15:00、15:00~23:00、23:00~7:00の3つのパートに分かれケアにあたる。約80名の入居者に対し約30名の職員でケアを行う。開設して間もないせいか職員数が十分に確保されていない。施設長のUrsulaさんは「もっと増やす必要がある」と話していた。
施設中心部にはトレーニングセンターを含む棟があり、作業療法や理学療法などによる機能維持・機能回復訓練が行われる。しかしトレーニングを行う専門職員を外部に依存しているため、十分にトレーニングを行えていない。
3. 入居者の状態
入居者の50%に認知症が見られる。このうちの20%(全体の10%)は重度の認知症を抱えている。身体機能の状態は、杖を使っての歩行が可能な人、車イスの人など多様である。多くの入居者は排泄・入浴の介助を要するが、食事介助は見られなかった。介助を必要としながらも自分の意思で日常生活を営んでいる様子がうかがえた。
4. 日中活動
トレーニングセンターには、ビリヤード台、ダーツなどの娯楽設備やジム、手芸室、美容室などがあり、広々としたスペースがとられていた。この設備は入居者のみが使用できる。専属の作業療法士や理学療法士などは設置しておらず、アクティビティはボランティアの協力の下行うことが多い。しかし開所して間もないためボランティアが不足している。
図3 トレーニングセンターの設備 図4 入り口近くにあるカフェ
5. 建築的特徴
廊下や、リビング・ダイニング、トレーニングセンター等のスペースが広々ととられていたことがこの施設の大きな特徴である。
施設は分棟配置であり、全部で5つの棟がある。中心にオフィスやトレーニングセンターやカフェ、会議室等がある建物。それを囲むようにして居住棟が配置される。1つの棟を除くとあとは全て平屋であった。(図2)すべてドアはセンサー式(入り口手前のボタンを押すと開く)であり、手に力がなくても開けられるようになっている。
各部屋にはミニキッチン・バス、クローゼットが備え付けてある。キッチンはシンクが上下には動かないが、下部に十分なスペースが確保され車イスでも十分に使えるようになっていた。皿や家具などは自分のものということだった。
図5,6 十分な幅の取られた廊下。
図7 入居者の部屋 図8 居室内のミニキッチン。
6. 考察
建築的な広さや設備の立派さ等に関しては非常に配慮がなされた計画である。しかし職員数や、ボランティアが根付いていない等、労働力不足の問題があるために、居住者の住みやすさは実現できない。Piaさんのケアにつき見学させてもらっていたが、とても慌しく、施設職員の負担は大きい。2階からオムツを落として捨てることのできるシューターなど労力を軽減するための設備もあった。
「行動スペースの余裕」とともに、「職員の気持ちの余裕」も重要である。
訪問日時 2006年8月31日
案内者 Pia Mortensenさん(施設職員の女性)
同行者 Martin Tangeさん(ネストベ市職員)
駅から車で30分ほど行ったところにKILDERARKSCENTRETはある。住宅地の中に立地し、2002年に開所した新しい建物である。ネストべ市にはこのような施設を5つ存在するという。その新しさ故、まだソフト面が十分に整っていない印象が大きかった。
図1 2階建ての棟より。 図2 施設の模型。
奥にはのどかな風景が広がる。 1棟を除く4棟が平屋建てである。
1. 施設概要
居室数 80戸 (11戸×4ユニット,12戸,24戸)
(一部は夫婦用の2人部屋。それ以外はすべて個室。)
開所年次 2002年
介護職員数 約90名
2. サービス、ケアの提供体制
ケアは1日3交替、24時間体制で行われている。介護職員らは7:00~15:00、15:00~23:00、23:00~7:00の3つのパートに分かれケアにあたる。約80名の入居者に対し約30名の職員でケアを行う。開設して間もないせいか職員数が十分に確保されていない。施設長のUrsulaさんは「もっと増やす必要がある」と話していた。
施設中心部にはトレーニングセンターを含む棟があり、作業療法や理学療法などによる機能維持・機能回復訓練が行われる。しかしトレーニングを行う専門職員を外部に依存しているため、十分にトレーニングを行えていない。
3. 入居者の状態
入居者の50%に認知症が見られる。このうちの20%(全体の10%)は重度の認知症を抱えている。身体機能の状態は、杖を使っての歩行が可能な人、車イスの人など多様である。多くの入居者は排泄・入浴の介助を要するが、食事介助は見られなかった。介助を必要としながらも自分の意思で日常生活を営んでいる様子がうかがえた。
4. 日中活動
トレーニングセンターには、ビリヤード台、ダーツなどの娯楽設備やジム、手芸室、美容室などがあり、広々としたスペースがとられていた。この設備は入居者のみが使用できる。専属の作業療法士や理学療法士などは設置しておらず、アクティビティはボランティアの協力の下行うことが多い。しかし開所して間もないためボランティアが不足している。
図3 トレーニングセンターの設備 図4 入り口近くにあるカフェ
5. 建築的特徴
廊下や、リビング・ダイニング、トレーニングセンター等のスペースが広々ととられていたことがこの施設の大きな特徴である。
施設は分棟配置であり、全部で5つの棟がある。中心にオフィスやトレーニングセンターやカフェ、会議室等がある建物。それを囲むようにして居住棟が配置される。1つの棟を除くとあとは全て平屋であった。(図2)すべてドアはセンサー式(入り口手前のボタンを押すと開く)であり、手に力がなくても開けられるようになっている。
各部屋にはミニキッチン・バス、クローゼットが備え付けてある。キッチンはシンクが上下には動かないが、下部に十分なスペースが確保され車イスでも十分に使えるようになっていた。皿や家具などは自分のものということだった。
図5,6 十分な幅の取られた廊下。
図7 入居者の部屋 図8 居室内のミニキッチン。
6. 考察
建築的な広さや設備の立派さ等に関しては非常に配慮がなされた計画である。しかし職員数や、ボランティアが根付いていない等、労働力不足の問題があるために、居住者の住みやすさは実現できない。Piaさんのケアにつき見学させてもらっていたが、とても慌しく、施設職員の負担は大きい。2階からオムツを落として捨てることのできるシューターなど労力を軽減するための設備もあった。
「行動スペースの余裕」とともに、「職員の気持ちの余裕」も重要である。
2007年01月12日
キャンパスベンチャーグランプリ 特別賞受賞
本研究のビジネスプランについて、昨年10月に日刊工業新聞社主催の
「キャンパスベンチャーグランプリ」に応募しておりました。
その結果特別賞をいただくことができたのでご報告いたします。
*東北地方の受賞者はこちら
これも応募の際にご尽力いただいた谷村先生や加藤君をはじめ、
研究を支えてくれている皆様の協力のおかげです。
ありがとうございます。
現在の進捗状況は、解体工事にとりかかったところです。
1月下旬には改修工事に着工、3月中旬には完成予定です。
「キャンパスベンチャーグランプリ」に応募しておりました。
その結果特別賞をいただくことができたのでご報告いたします。
*東北地方の受賞者はこちら
これも応募の際にご尽力いただいた谷村先生や加藤君をはじめ、
研究を支えてくれている皆様の協力のおかげです。
ありがとうございます。
現在の進捗状況は、解体工事にとりかかったところです。
1月下旬には改修工事に着工、3月中旬には完成予定です。
2007年01月08日
デンマーク視察 概要
前回の視察報告(16)で、スウェーデンでの視察報告は終了しました。
最後に、残るデンマーク3ヶ所の視察報告を行っていく予定です。
デンマークでは、以下の施設を視察しました。
・Kildemarks Centret (ネストベ市:Næstved City)
・Røjleparken (ネストベ市)
・Sophilund
最初の2ヶ所が位置するネストベ市は、首都コペンハーゲンから普通列車で1時間ほど行った、のどかな地にある。人口は47,000千人、そのうち14.7%の7,300人が高齢者である。高齢者の2,000人が在宅で生活をしている。ネストべ市は在宅を支えるために訪問介護を積極的に行っていることで知られている。
案内していただいたのはネストベ市の職員Martin Tangeさん。両者とも近年設立されたばかりの施設であり、平屋か高くても2階建てである。移動中、周りを見渡してみても低層住宅、そして農地が多い地域であった。
参考文献)
松岡洋子 著;デンマークの高齢者福祉と地域居住 最期まで住み切る住宅力・ケア力・地域力; 新評論;2005.10
ネストべ市の住宅地。低層の住宅が広がっている。
追記) デンマークの街 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
写真1 写真2
デンマークのまちなかには多くの人があふれていた。
店外の席で食事をする人も多く、
広場ではパフォーマンスや写真展(写真1)などが行われており、
屋外での生活を楽しんでいる。
そしてまちには乳母車を引く親子連れ(写真2)が多くみられた。
石畳の上は走行しにくいかと思われたが、
とても頑丈で大きなタイヤがそれを支えているのだろう。
バスに気兼ねなく乗れるようなスペースがとられていたり、
周りの人がさりげなく席を譲ったりと、心理的要素も大きい。
北欧のなかでも特にコペンハーゲンでは、自転車を使う人が多かった。
自転車のレーンがきちんと確保されており、ルールも皆守っている。
都市部でも自転車の権利がきちんと保たれている印象を受けた。
最後に、残るデンマーク3ヶ所の視察報告を行っていく予定です。
デンマークでは、以下の施設を視察しました。
・Kildemarks Centret (ネストベ市:Næstved City)
・Røjleparken (ネストベ市)
・Sophilund
最初の2ヶ所が位置するネストベ市は、首都コペンハーゲンから普通列車で1時間ほど行った、のどかな地にある。人口は47,000千人、そのうち14.7%の7,300人が高齢者である。高齢者の2,000人が在宅で生活をしている。ネストべ市は在宅を支えるために訪問介護を積極的に行っていることで知られている。
案内していただいたのはネストベ市の職員Martin Tangeさん。両者とも近年設立されたばかりの施設であり、平屋か高くても2階建てである。移動中、周りを見渡してみても低層住宅、そして農地が多い地域であった。
参考文献)
松岡洋子 著;デンマークの高齢者福祉と地域居住 最期まで住み切る住宅力・ケア力・地域力; 新評論;2005.10
ネストべ市の住宅地。低層の住宅が広がっている。
追記) デンマークの街 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
写真1 写真2
デンマークのまちなかには多くの人があふれていた。
店外の席で食事をする人も多く、
広場ではパフォーマンスや写真展(写真1)などが行われており、
屋外での生活を楽しんでいる。
そしてまちには乳母車を引く親子連れ(写真2)が多くみられた。
石畳の上は走行しにくいかと思われたが、
とても頑丈で大きなタイヤがそれを支えているのだろう。
バスに気兼ねなく乗れるようなスペースがとられていたり、
周りの人がさりげなく席を譲ったりと、心理的要素も大きい。
北欧のなかでも特にコペンハーゲンでは、自転車を使う人が多かった。
自転車のレーンがきちんと確保されており、ルールも皆守っている。
都市部でも自転車の権利がきちんと保たれている印象を受けた。
2007年01月06日
視察報告(15) Gunlaug Nilsenさん
所在地 スウェーデン マルメ市
訪問日時 2006年8月29日
同行者 テル・トシコさん(マルメ市公認ガイド)
1. 概要
Gunlaug Nilsenさんは、マルメ市内にある知的障害者のグループホームで暮らしている49歳(訪問当時)の女性である。このグループホームには男性3人女性4人の計7名が住んでおり、70歳代の高齢の男性も入居している。今回はこのグループホーム内のGunlaugさんの部屋を訪れ、お話を伺った。
Gunlaugさんは2年前からこのグループホームで暮らしている。以前は別の地区の障害者用のアパートに住んでいたが、そこでは自分の話を真剣に聞いてくれる人がおらず、不満を抱いていたそうである。このグループホームへ移ってからはいい友人や職員に囲まれ、快適な生活を送っているそうである。
2. 普段の生活の様子
Gunlaugさんは、週に3日、午前中のみ仕事をし、週に2日は学校へ通っている。職場へはバスを使い一人で通勤しているそうである。その他に歌を歌う活動にも参加しており、施設を訪問して歌を披露したりしている。
食事は、3食ともグループホーム1階の食堂で皆と一緒に摂っている。食事は職員らから提供されるが、自分の食べたいものは自分で買ってきたりするようである。
彼女は5人姉妹の末っ子である。毎年クリスマスは姉のところで過ごし、誕生日にはお姉さんたちが駆けつけてくれることになっており、それをとても楽しみにしていると話してくれた。
部屋は広々としたワンルームで、キッチン、収納棚、大きなクローゼットが備え付けられていた。トイレ・バスは個室内にはなく、共同である。家具はすべて私物だったが、室内は色調豊かで、さまざまな家具がとてもセンスよくコーディネートされていた。
3. 考察
Gunlaugさんの部屋には立派なキッチンがある。飲み物を入れる程度にしか使わないそうだが、料理をするのにも充分すぎるほどに広々としていた。
部屋の設えは、生活の水準をも示すものであると思う。たとえ頻繁に料理をしなくても、したくなった時のために、その機会が保障されていることは重要である。
自分で自分の食事を作るという選択肢を与えることは、自分の生活を自分自身でデザインする権利が守られているということだからである。
今回の訪問ではGunlaugさんの部屋以外の場所は見られなかったが、エントランスや廊下、階段には木材が使われ、広々とした温かみのある雰囲気だった。
訪問時はちょうど夕食時で、ダイニングルームに皆が揃っている様子が見られた。年齢や性別・性格の異なる他人同士が暮らすグループホームだが、家庭的な雰囲気の中で生活している様子が窺えた。
訪問日時 2006年8月29日
同行者 テル・トシコさん(マルメ市公認ガイド)
1. 概要
Gunlaug Nilsenさんは、マルメ市内にある知的障害者のグループホームで暮らしている49歳(訪問当時)の女性である。このグループホームには男性3人女性4人の計7名が住んでおり、70歳代の高齢の男性も入居している。今回はこのグループホーム内のGunlaugさんの部屋を訪れ、お話を伺った。
Gunlaugさんは2年前からこのグループホームで暮らしている。以前は別の地区の障害者用のアパートに住んでいたが、そこでは自分の話を真剣に聞いてくれる人がおらず、不満を抱いていたそうである。このグループホームへ移ってからはいい友人や職員に囲まれ、快適な生活を送っているそうである。
2. 普段の生活の様子
Gunlaugさんは、週に3日、午前中のみ仕事をし、週に2日は学校へ通っている。職場へはバスを使い一人で通勤しているそうである。その他に歌を歌う活動にも参加しており、施設を訪問して歌を披露したりしている。
食事は、3食ともグループホーム1階の食堂で皆と一緒に摂っている。食事は職員らから提供されるが、自分の食べたいものは自分で買ってきたりするようである。
彼女は5人姉妹の末っ子である。毎年クリスマスは姉のところで過ごし、誕生日にはお姉さんたちが駆けつけてくれることになっており、それをとても楽しみにしていると話してくれた。
部屋は広々としたワンルームで、キッチン、収納棚、大きなクローゼットが備え付けられていた。トイレ・バスは個室内にはなく、共同である。家具はすべて私物だったが、室内は色調豊かで、さまざまな家具がとてもセンスよくコーディネートされていた。
3. 考察
Gunlaugさんの部屋には立派なキッチンがある。飲み物を入れる程度にしか使わないそうだが、料理をするのにも充分すぎるほどに広々としていた。
部屋の設えは、生活の水準をも示すものであると思う。たとえ頻繁に料理をしなくても、したくなった時のために、その機会が保障されていることは重要である。
自分で自分の食事を作るという選択肢を与えることは、自分の生活を自分自身でデザインする権利が守られているということだからである。
今回の訪問ではGunlaugさんの部屋以外の場所は見られなかったが、エントランスや廊下、階段には木材が使われ、広々とした温かみのある雰囲気だった。
訪問時はちょうど夕食時で、ダイニングルームに皆が揃っている様子が見られた。年齢や性別・性格の異なる他人同士が暮らすグループホームだが、家庭的な雰囲気の中で生活している様子が窺えた。
2006年12月16日
視察報告(14) Marta Olssonさん宅
所在地 スウェーデン マルメ市
訪問日時 2006年8月29日
同行者 テル・トシコさん(マルメ市公認ガイド)
1. 概要
サービスハウスを持つアパートに住む78歳の女性Marta Olssonさん宅を訪問した。
Olssonさんは現在40㎡の部屋に一人で住んでいる。家賃は4125skr(約76,000円)である。
現在のアパート入居以前は、別のところに住みサブハウスも持っていた。6年待機し、ようやくサービスハウスに空きがでたので元の家を売り、夫と共に5年前型違いの90㎡の部屋に入居した。2年前に夫が亡くなったこともあり、2ヶ月前に今の部屋へ移り住むこととなった。
このサービスハウスは敷地内にいくつかの住居棟を持っている。施設内にはヘルパーが居り、地区の看護師も来てくれる(スウェーデンやデンマーク全国で整備されている地区の看護師のこと *視察報告(13)参照)。
行事も多く開かれ、例えば復活祭の前にバザーやダンスパーティ、クリスマスパーティなどがある。
2. 普段の生活の様子
室内はきちんと片付けられ、たくさんの絵や家族の写真で壁が飾られていた。孫4人は皆マルメ市におり時々遊びにくるということ。室内には段差はなくその一方、浴室入り口に水止めが置かれており、廊下側への勾配が気になった。
Olssonさんは以前、外へ出るときに転んで右腕にケガをしたことがあった。血管も切れ、何も持てない状態になったのだが、アパートへ理学療法士が訪れリハビリをしたおかげで完治した。「元通りになってうれしい」とのこと。OlssonさんもIngridさん同様、腕時計式の緊急用アラームをつけていた。
料理は自分でも時々作るが、一階に設置されているサービスハウスからも持ってくることも多い。「ここで作られたものはおいしいのがたくさんある」と満足しているようだった。
3.考察
今回見学させていただいた集合住宅に住む個人のお宅(Ingridさん宅、Olssonさん宅)においては両者ともに、とてもすっきりとした室内であった。
それは収納の多さにより、生活感を出さず暮らせることに起因しているのであろう。このアパートにおいても室内の収納だけでなく、建物の地下に倉庫を持つということだった。
ヘルシンキ都市計画局の吉崎さんのお話にもあったが、フィンランドのほとんどの集合住宅では、公共空間に倉庫や乾燥室を設けている。従って室内が生活のためだけに豊かに使える。そのことは見た目の美しさだけでなく、室内での躓き等の事故を防ぐことにもつながると言えるだろう。
また多世代間交流の視点から見ると問題点があると言えるが、サービスハウスに接して高齢者が集まって住むことの利点には、気軽に仲間との交流がもてること、緊急時の備えがしやすいことが挙げられる。
訪問日時 2006年8月29日
同行者 テル・トシコさん(マルメ市公認ガイド)
1. 概要
サービスハウスを持つアパートに住む78歳の女性Marta Olssonさん宅を訪問した。
Olssonさんは現在40㎡の部屋に一人で住んでいる。家賃は4125skr(約76,000円)である。
現在のアパート入居以前は、別のところに住みサブハウスも持っていた。6年待機し、ようやくサービスハウスに空きがでたので元の家を売り、夫と共に5年前型違いの90㎡の部屋に入居した。2年前に夫が亡くなったこともあり、2ヶ月前に今の部屋へ移り住むこととなった。
このサービスハウスは敷地内にいくつかの住居棟を持っている。施設内にはヘルパーが居り、地区の看護師も来てくれる(スウェーデンやデンマーク全国で整備されている地区の看護師のこと *視察報告(13)参照)。
行事も多く開かれ、例えば復活祭の前にバザーやダンスパーティ、クリスマスパーティなどがある。
2. 普段の生活の様子
室内はきちんと片付けられ、たくさんの絵や家族の写真で壁が飾られていた。孫4人は皆マルメ市におり時々遊びにくるということ。室内には段差はなくその一方、浴室入り口に水止めが置かれており、廊下側への勾配が気になった。
Olssonさんは以前、外へ出るときに転んで右腕にケガをしたことがあった。血管も切れ、何も持てない状態になったのだが、アパートへ理学療法士が訪れリハビリをしたおかげで完治した。「元通りになってうれしい」とのこと。OlssonさんもIngridさん同様、腕時計式の緊急用アラームをつけていた。
料理は自分でも時々作るが、一階に設置されているサービスハウスからも持ってくることも多い。「ここで作られたものはおいしいのがたくさんある」と満足しているようだった。
3.考察
今回見学させていただいた集合住宅に住む個人のお宅(Ingridさん宅、Olssonさん宅)においては両者ともに、とてもすっきりとした室内であった。
それは収納の多さにより、生活感を出さず暮らせることに起因しているのであろう。このアパートにおいても室内の収納だけでなく、建物の地下に倉庫を持つということだった。
ヘルシンキ都市計画局の吉崎さんのお話にもあったが、フィンランドのほとんどの集合住宅では、公共空間に倉庫や乾燥室を設けている。従って室内が生活のためだけに豊かに使える。そのことは見た目の美しさだけでなく、室内での躓き等の事故を防ぐことにもつながると言えるだろう。
また多世代間交流の視点から見ると問題点があると言えるが、サービスハウスに接して高齢者が集まって住むことの利点には、気軽に仲間との交流がもてること、緊急時の備えがしやすいことが挙げられる。
2006年10月26日
視察報告(13) Ingrid Holmblad さん宅
所在地 スウェーデン マルメ市
訪問日時 2006年8月29日
同行者 テル・トシコさん(マルメ市公認ガイド)
リビング Ingridさんはこのイスに座っていることが多い
1. 概要
Ingridさんはマルメ市内で一人暮らしをしている女性である。
一昨年から半身不随になり、昨年からサービスハウスで一人暮らしをしている。
Ingridさんが住んでいるのはトッペン(「雄鶏」の意味)という名の施設である。ここは年金受給者(障害者や高齢者)を対象とした施設で、主に高齢者が入居している。
今回はこのサービスハウス内のIngridさんの部屋を訪れ、Ingridさんとそのアシスタントの陽子さんにお話を伺った。
2. 普段の生活の様子
Ingridさんは自力で移動するのが難しいため、身の回りの世話をするアシスタントを2人雇っている。彼女らが交代で毎日訪問し、朝8:30の起床から18:00の夕食の手伝いまでを行う。
アシスタントが帰った後、夕方から朝までの間は地域看護師(ヘムシェルズ)がケアにあたる。就寝前の着替え・歯磨き・ベッドへの移動などを手伝い、夜間の緊急呼び出しにも応じる。
機能回復のための運動にも前向きに取り組んでいる。週に1回、トレーニングをしに施設に通っている。また、毎日2回、玄関前の階段を上下する運動も欠かさない。Ingridさんは以前約半年間リハビリ施設に入居していたが、このアパートへ移ってから身体の状態が良くなったという。
引っ越してきた当時は自力で立つことは全くできなかったが、今ではイスから車イスへの移乗も1人ででき、わずかではあるが自力で歩けるようにもなった。
3. 政府からの援助
Ingridさんは、市から無料で提供される補助器具を大いに活用している。マルメ市では、キッチン用具からトイレ周りの手すりまで、あらゆる補助器具・道具を貸与・支給している。
Ingridさんは、リモコンで窓の開閉をできる機器が気に入ってると言っていた。アシスタントの陽子さんは、Ingridさんの身体の機能の状態にあわせて補助器具を取り替えている。動きの改善が見られたら、不要な補助器具を取り除き新しいものを取り入れる、という方針である。
住宅内部は、玄関を入ると広々とした短い廊下があり、車イスでも十分に通行・方向転換できるスペースが確保されていた。またリビング・寝室・キッチンもすべてゆったりと作られており、車イスでも全く問題を生じさせない広さの空間だった。
以前Ingridさんは室内の改修を申請したが認められず、トイレ入口の敷居を取り除く工事のみが行われた。
はさみ と フォーク+スプーン キッチン。車イスで使用できるようシンク下があいている
4. 考察
Ingridさんは、半身麻痺のため日常行為は自立していないが、自己決定によって自分の生活を描いていると言う点で十分に自立している。そして、少しずつ歩けるようになるなど、見事に機能を回復しつつある。
このように機能を回復できた背景には、アシスタントの存在がある。訪問時にいたアシスタントの陽子さんは、Ingridさんの身体機能の回復に全力で取り組んでいた。長時間そばにいる人が機能回復に対して理解があり、積極的であるということは、非常に重要な意味がある。
陽子さんは、週に一度派遣元の会社で講義を受け、機能回復のためにどのようなトレーニングが望ましいかなどを学んでいる。
小柄な陽子さんにとって、体格の大きなIngridさんの身体を支えて階段昇降の訓練等をサポートするのは肉体的に大きな負担だそうである。しかしIngridさんの懸命な努力を見ているからこそハードな訓練もサポートし続けられるのだろう。
さらに、政府から提供される補助器具を積極的に利用していることも機能が改善した大きな要因であろう。
陽子さんは、機能回復のために有効と思われる補助器具があれば、すぐに市へ申請し導入する。そして、身体の状態が良くなり器具が不要になればすぐに撤去し、次の段階に必要な器具を再び申請する。こうしたアシストがあるからこそ、Ingridさんは機能を回復しているのだと考えられる。
自力で起き上がるための器具 キャスター付きのイス。これに座ると楽に移動できる
上記二つはどちらも補助器具として無料で利用できる。
また、一人暮らしを継続するために、夜間のケアにあたる地域看護師の存在は大きい。
地域看護師とは、徒歩圏内の各地区にナースステーションがあり、そこにいる看護師が地域の医療を賄う、というシステムである。通常の診療の他に高齢者のケアを行う事が特徴である。高齢者の自宅からの呼びかけに応じ、自宅へ行って排泄の手伝いなどを行う。腕時計式の緊急用アラームも、このナースステーションへ繋がっている。ほとんどの地区で自宅から徒歩5分以内の距離にナースステーションがあるため、緊急時にもすぐに駆けつけてもらうことができ、安全網としての役割もある。
この地域看護師の体制が整っているからこそ、夜間も一人でいることができ、一人暮らしが継続できるのである。日本では、地域看護師という体制はない。昼間はヘルパーのケアが受けられるが、夜間の排泄等は家族に頼ることになり、一人暮らしは難しくなりがちである。
可能な限り自宅で住み続けるためには、夜間のケアが保障されていることが必要である。
訪問日時 2006年8月29日
同行者 テル・トシコさん(マルメ市公認ガイド)
リビング Ingridさんはこのイスに座っていることが多い
1. 概要
Ingridさんはマルメ市内で一人暮らしをしている女性である。
一昨年から半身不随になり、昨年からサービスハウスで一人暮らしをしている。
Ingridさんが住んでいるのはトッペン(「雄鶏」の意味)という名の施設である。ここは年金受給者(障害者や高齢者)を対象とした施設で、主に高齢者が入居している。
今回はこのサービスハウス内のIngridさんの部屋を訪れ、Ingridさんとそのアシスタントの陽子さんにお話を伺った。
2. 普段の生活の様子
Ingridさんは自力で移動するのが難しいため、身の回りの世話をするアシスタントを2人雇っている。彼女らが交代で毎日訪問し、朝8:30の起床から18:00の夕食の手伝いまでを行う。
アシスタントが帰った後、夕方から朝までの間は地域看護師(ヘムシェルズ)がケアにあたる。就寝前の着替え・歯磨き・ベッドへの移動などを手伝い、夜間の緊急呼び出しにも応じる。
機能回復のための運動にも前向きに取り組んでいる。週に1回、トレーニングをしに施設に通っている。また、毎日2回、玄関前の階段を上下する運動も欠かさない。Ingridさんは以前約半年間リハビリ施設に入居していたが、このアパートへ移ってから身体の状態が良くなったという。
引っ越してきた当時は自力で立つことは全くできなかったが、今ではイスから車イスへの移乗も1人ででき、わずかではあるが自力で歩けるようにもなった。
3. 政府からの援助
Ingridさんは、市から無料で提供される補助器具を大いに活用している。マルメ市では、キッチン用具からトイレ周りの手すりまで、あらゆる補助器具・道具を貸与・支給している。
Ingridさんは、リモコンで窓の開閉をできる機器が気に入ってると言っていた。アシスタントの陽子さんは、Ingridさんの身体の機能の状態にあわせて補助器具を取り替えている。動きの改善が見られたら、不要な補助器具を取り除き新しいものを取り入れる、という方針である。
住宅内部は、玄関を入ると広々とした短い廊下があり、車イスでも十分に通行・方向転換できるスペースが確保されていた。またリビング・寝室・キッチンもすべてゆったりと作られており、車イスでも全く問題を生じさせない広さの空間だった。
以前Ingridさんは室内の改修を申請したが認められず、トイレ入口の敷居を取り除く工事のみが行われた。
はさみ と フォーク+スプーン キッチン。車イスで使用できるようシンク下があいている
4. 考察
Ingridさんは、半身麻痺のため日常行為は自立していないが、自己決定によって自分の生活を描いていると言う点で十分に自立している。そして、少しずつ歩けるようになるなど、見事に機能を回復しつつある。
このように機能を回復できた背景には、アシスタントの存在がある。訪問時にいたアシスタントの陽子さんは、Ingridさんの身体機能の回復に全力で取り組んでいた。長時間そばにいる人が機能回復に対して理解があり、積極的であるということは、非常に重要な意味がある。
陽子さんは、週に一度派遣元の会社で講義を受け、機能回復のためにどのようなトレーニングが望ましいかなどを学んでいる。
小柄な陽子さんにとって、体格の大きなIngridさんの身体を支えて階段昇降の訓練等をサポートするのは肉体的に大きな負担だそうである。しかしIngridさんの懸命な努力を見ているからこそハードな訓練もサポートし続けられるのだろう。
さらに、政府から提供される補助器具を積極的に利用していることも機能が改善した大きな要因であろう。
陽子さんは、機能回復のために有効と思われる補助器具があれば、すぐに市へ申請し導入する。そして、身体の状態が良くなり器具が不要になればすぐに撤去し、次の段階に必要な器具を再び申請する。こうしたアシストがあるからこそ、Ingridさんは機能を回復しているのだと考えられる。
自力で起き上がるための器具 キャスター付きのイス。これに座ると楽に移動できる
上記二つはどちらも補助器具として無料で利用できる。
また、一人暮らしを継続するために、夜間のケアにあたる地域看護師の存在は大きい。
地域看護師とは、徒歩圏内の各地区にナースステーションがあり、そこにいる看護師が地域の医療を賄う、というシステムである。通常の診療の他に高齢者のケアを行う事が特徴である。高齢者の自宅からの呼びかけに応じ、自宅へ行って排泄の手伝いなどを行う。腕時計式の緊急用アラームも、このナースステーションへ繋がっている。ほとんどの地区で自宅から徒歩5分以内の距離にナースステーションがあるため、緊急時にもすぐに駆けつけてもらうことができ、安全網としての役割もある。
この地域看護師の体制が整っているからこそ、夜間も一人でいることができ、一人暮らしが継続できるのである。日本では、地域看護師という体制はない。昼間はヘルパーのケアが受けられるが、夜間の排泄等は家族に頼ることになり、一人暮らしは難しくなりがちである。
可能な限り自宅で住み続けるためには、夜間のケアが保障されていることが必要である。
2006年10月04日
視察報告(12) Liisaさんのお宅(8/29訪問)
写真1 Liisaさん宅外観 写真2 2階寝室
所在地 スウェーデン マルメ市
訪問日時 2006年8月29日 10:30~11:20
同行者 テル・トシコさん(マルメ市公認ガイド)
Katarina Lindbergさん
(マルメ市庁建築事務所 作業療法士の女性)
1. 概要
Liisaさんはマルメ市内に住む80歳の女性である。48年間暮らした自宅で現在も住み続けている。旦那さんを亡くした16年前から一人暮らしとなった。
住居の構成は1Fがキッチン・リビング・トイレ、2Fが寝室・シャワー・トイレ、3Fが物置である。
2. 改修
○ リフトの設置
リフトは2度に分け2箇所に設置が行われた。3年前に「2階へ上がる階段のリフト(写真3)」、そして訪問した日の2週間前に「玄関階段を上がるためのリフト(写真4)」を設置した。
*つかまって歩くための歩行器は1階と2階の両方に置いている。
現在の2階へ上がるためのリフトは、座って乗るタイプのものである。もし車いすを必要とするようになったら1、2階の両方に車いすを置くか、または外(大きな家の場合は内)へのEVの設置ができる。
写真3 Liisaさんと、2階へ上がるリフト 写真4 玄関入り口に設置されたリフト
○ シャワー・トイレの改修 (写真5)
2階のシャワー・トイレ室では敷居の除去、バスタブの除去などが行われ、壁や床も新装している。改修前は、Liisaさんが足が上がらないため、バスタブに入るのが困難であった。補助器具も利用してみたが無理であったため改修にいたる。
3. 行政からの補助
2.で挙げた改修、そして手押し車などの補助器具の支給(もしくは貸与)はすべて行政からの援助である。これらを行うには審査が必要で、もし1階だけで生活できると判断されたら、ここまでの改修は行われない。Liisaさんの場合、2階にトイレとシャワー、そして寝室もあったためリフトの設置が行われた。そしてホームヘルパーがいないのもこれだけの改修が行える理由である。ヘルパーなしでの自立した生活を支えるために改修が行われているのだ。
改修までの流れは、本人、もしくは家族が改修が必要だと感じたときに作業療法士に電話をする。作業療法士が必要と判断した改修のプランを立て、それを自分で申請する。作業療法士のプランに自分の希望を加えても良い。(実現するかは市の判断)
4.普段の生活の様子
日中は家で手仕事をしていることが多いという。室内はレースで編まれた人形や孫の写真などが、美しく飾られていた。食事は自分で作る。台所にはキャスターのついたイスがおいてあり、座りながら自由、そして楽に台所仕事をできるということだった。台所下に空間がなく、使いづらくないかと質問したが、問題ないということだった。
非常時のために腕にアラームをつけている。押すと地域のアラームセンターへ繋がり、スピーカーで通じ応答がないと自宅へ訪れて、様子を見に来るというシステムがある。
外出は補助器具で行くことのできる距離までは、自分で出かける。そして遠いところへは近くに住む息子に連れていってもらい、息子が不在のときは買い物の際だけヘルパーがつく。
そして週に1回2時間、ビンゴをしにサービスセンターへいく。そこには100人くらいの人が集まり友人との交流を楽しんでいるという。
写真5 改修されたシャワー・トイレ室 写真6 案内してくれるLiisaさんとその息子さん
5. 考察
実際の一人暮らしの方の生活の様子を見れるという、貴重な体験をさせていただいた。
所々に改修の後が見受けられ、その人の状況に合わせた改修が適宜行われていた。作業療法士による、補助器具の適切なアドバイスを受け、自分に合った器具や方法を選択できる。このように、どのようにすればよいか気軽に対処法を知れることが、高齢者が自分の能力を生かし生活するために必要なことである。
足が不自由なため、上下移動が特に困難になってしまった。昔から住み続ける家には段差が多い。
しかしそのような時に、経済的負担がなく改修が行えることで、住み慣れた地域、思い出の残る家に住み続けられる。このことが精神的にも安心し、落ち着いて、そして楽しく暮らしていけるポイントであると考える。
2006年09月27日
視察報告(11) マルメ市庁 建築事務所(8/29訪問)
Malmö市庁 建築事務所
所在地 スウェーデン マルメ市
訪問日時 2006年8月29日 8:30~
同行者 テル・トシコさん(マルメ市公認ガイド)
1. 訪問先概要
マルメ市庁には、住宅改修を専門とする部門(建築事務所)があり、年間3000~3500ほどの依頼に対応している。ここで働くのは、設計士1名、作業療法士2名、コンサルタント1名、アシスタント2名の計6名である。
この事務所では、住宅改修に関する相談受付から自宅訪問、改修内容の検討、書類作成、改修プランの設計、監督等を一貫して行っている。
スウェーデンでは、作業療法士(場合によっては医師)によって改修が必要と認められると、市の全額負担で改修を行うことができる。住宅改修に係る予算は、マルメ市では年間3500万スウェーデンクローネ(約5.6億円)、スウェーデン全体では9億クローネ(約143億円)にものぼる。
2. 業務内容
年間3000件以上もの改修を行う事務所。その改修内容の内訳を聞いてみると、
・敷居を取り除く・バルコニーの床を上げるなどの「段差解消」が1500件
・高齢者対応型のシャワーユニットへの改修が200件
・浴槽を取り除く工事(スペース確保のため)が200件
・エレベーターの設置が50件
・流し台を上下可動式のものにする改修が1、2件
であるという。
改修の依頼があると、まず作業療法士が依頼者の自宅を訪問する。そして身体機能の状態や自宅の様子等から必要な改修内容を判断し、証明書を作成する。設計士も自宅を訪問し、設計を行い、民間の大工やメーカーへ発注する。
作業療法士の仕事は証明書を発行するだけに留まらず、改修の専門家として細部にわたるまで指示を出し、調整を行う。
設計士のハンス氏は、マルメ市内の改修のすべてを1人で設計している。先に述べたように、依頼の多くは段差解消などの小さな工事である上、他の改修のパターンもある程度決まっているため1人でもこなせるのだという。
コンサルタントのジョニー氏は、建設される建物が身体障害者用の建築基準を満たしているかを審査したり、新たな建築基準の策定を行ったりしている。
アシスタントは、請求書の作成、証明書の作成、苦情処理等の業務にあたっている。
3. マルメ市の建築基準
スウェーデンで新築される建物は、すべて車椅子で利用可能でなければならない、と定められている。具体的な寸法は決められていない(目安はある)が、「車椅子で利用可能であること」という条件が満たされなければ、建築許可は下りない。
またマルメ市にも、建築基準に関する独自の条例がある。この基準を満たさなければ、建設者は市から土地を買ったり借りたりすることができない。市内の土地はほぼすべてマルメ市が所有しているため、強制的に基準を守らせることができるのである。
4. 考察
フィンランドと同様に、スウェーデンでも住宅改修は政府が請負っている。
車いすを乗せて階段を昇降するリフトやエレベーターなど、自宅で暮らしつづけるために必要と判断されたものであれば、何でも無料で改修・設置される。
日本では、住宅改修は個人の責任で行うもの、という認識が一般的であろう。政府の補助も、指定された6項目の工事に対してのみ20万円を上限として支給される。
日本と北欧諸国との間には、住宅の供給・整備に対する根本的な認識の違いがある。しかしながら、国民の暮らしを保障するという共通の目的において、政府が住宅の整備に責任を持つことは非常に重要な意味を持っている。
また、改修内容の内訳を見てみると、見えてくるものがある。
改修内容のうち、「段差解消」が半分近くにも及ぶ。
一見ささいなニーズにも見えるが、これがいかに彼らの生活の快適の度合いを高めるか、改めて考えさせられる。
費用の自己負担がなく、遠慮なく改修を依頼できるであろう状況下で出されたニーズであるからこそ、真に高齢者の声を反映していると言えるのではないだろうか。
(段差解消に関しては、日本の介護保険にによる補助でも支給対象になっている。)
また、浴室の改修も多い。高齢者が自立して生活する上で、排泄・入浴行為の自立は非常に大切である。高齢者が元気でいるためには、「自分でできる」という自信を持つことが重要なのである。
段差が無いことや自力で入浴できるようになることで、、確実に高齢者の生活は快適になる。さらに精神的な安定も期待できるだろう。
住宅の改修は「物的な整備」であるだけでなく、高齢者の精神的健康をサポートするソフトの整備でもある。日本でも、こういった観点も踏まえて、今後の住宅改修の制度は展開されていくべきであろう。
所在地 スウェーデン マルメ市
訪問日時 2006年8月29日 8:30~
同行者 テル・トシコさん(マルメ市公認ガイド)
1. 訪問先概要
マルメ市庁には、住宅改修を専門とする部門(建築事務所)があり、年間3000~3500ほどの依頼に対応している。ここで働くのは、設計士1名、作業療法士2名、コンサルタント1名、アシスタント2名の計6名である。
この事務所では、住宅改修に関する相談受付から自宅訪問、改修内容の検討、書類作成、改修プランの設計、監督等を一貫して行っている。
スウェーデンでは、作業療法士(場合によっては医師)によって改修が必要と認められると、市の全額負担で改修を行うことができる。住宅改修に係る予算は、マルメ市では年間3500万スウェーデンクローネ(約5.6億円)、スウェーデン全体では9億クローネ(約143億円)にものぼる。
2. 業務内容
年間3000件以上もの改修を行う事務所。その改修内容の内訳を聞いてみると、
・敷居を取り除く・バルコニーの床を上げるなどの「段差解消」が1500件
・高齢者対応型のシャワーユニットへの改修が200件
・浴槽を取り除く工事(スペース確保のため)が200件
・エレベーターの設置が50件
・流し台を上下可動式のものにする改修が1、2件
であるという。
改修の依頼があると、まず作業療法士が依頼者の自宅を訪問する。そして身体機能の状態や自宅の様子等から必要な改修内容を判断し、証明書を作成する。設計士も自宅を訪問し、設計を行い、民間の大工やメーカーへ発注する。
作業療法士の仕事は証明書を発行するだけに留まらず、改修の専門家として細部にわたるまで指示を出し、調整を行う。
設計士のハンス氏は、マルメ市内の改修のすべてを1人で設計している。先に述べたように、依頼の多くは段差解消などの小さな工事である上、他の改修のパターンもある程度決まっているため1人でもこなせるのだという。
コンサルタントのジョニー氏は、建設される建物が身体障害者用の建築基準を満たしているかを審査したり、新たな建築基準の策定を行ったりしている。
アシスタントは、請求書の作成、証明書の作成、苦情処理等の業務にあたっている。
3. マルメ市の建築基準
スウェーデンで新築される建物は、すべて車椅子で利用可能でなければならない、と定められている。具体的な寸法は決められていない(目安はある)が、「車椅子で利用可能であること」という条件が満たされなければ、建築許可は下りない。
またマルメ市にも、建築基準に関する独自の条例がある。この基準を満たさなければ、建設者は市から土地を買ったり借りたりすることができない。市内の土地はほぼすべてマルメ市が所有しているため、強制的に基準を守らせることができるのである。
4. 考察
フィンランドと同様に、スウェーデンでも住宅改修は政府が請負っている。
車いすを乗せて階段を昇降するリフトやエレベーターなど、自宅で暮らしつづけるために必要と判断されたものであれば、何でも無料で改修・設置される。
日本では、住宅改修は個人の責任で行うもの、という認識が一般的であろう。政府の補助も、指定された6項目の工事に対してのみ20万円を上限として支給される。
日本と北欧諸国との間には、住宅の供給・整備に対する根本的な認識の違いがある。しかしながら、国民の暮らしを保障するという共通の目的において、政府が住宅の整備に責任を持つことは非常に重要な意味を持っている。
また、改修内容の内訳を見てみると、見えてくるものがある。
改修内容のうち、「段差解消」が半分近くにも及ぶ。
一見ささいなニーズにも見えるが、これがいかに彼らの生活の快適の度合いを高めるか、改めて考えさせられる。
費用の自己負担がなく、遠慮なく改修を依頼できるであろう状況下で出されたニーズであるからこそ、真に高齢者の声を反映していると言えるのではないだろうか。
(段差解消に関しては、日本の介護保険にによる補助でも支給対象になっている。)
また、浴室の改修も多い。高齢者が自立して生活する上で、排泄・入浴行為の自立は非常に大切である。高齢者が元気でいるためには、「自分でできる」という自信を持つことが重要なのである。
段差が無いことや自力で入浴できるようになることで、、確実に高齢者の生活は快適になる。さらに精神的な安定も期待できるだろう。
住宅の改修は「物的な整備」であるだけでなく、高齢者の精神的健康をサポートするソフトの整備でもある。日本でも、こういった観点も踏まえて、今後の住宅改修の制度は展開されていくべきであろう。
2006年09月26日
視察報告 の 経過報告
これまでの視察報告(1)~(10)で、フィンランドの視察報告が終了しました。
引き続き、スウェーデン(5ヶ所)とデンマーク(3ヶ所)の報告をしていく予定です。
スウェーデンでは、マルメ市で視察を行いました。
マルメ市は、スウェーデンの南端に位置する人口27万人の都市です。視察は8月29日にすべて行われ、以下の5ヶ所を訪問しました。
・マルメ市庁の住宅改修を扱う部門
・自宅で暮らす、足の不自由な高齢の女性(Liisaさん)
・年金受給者用住居に住む下半身付随の女性(Inglid さん)
・サービスハウスに住む高齢の女性(Marta Olssonさん)
・知的障害者のグループホームに住む女性(Gunlaugさん)
視察先はすべてマルメ市公認ガイドのテルトシコさんにアレンジしていただき、当日は同行・通訳もしていただきました。個人の住宅を多く訪問することができ、とても貴重な体験をすることができました。
デンマークでは、以下の施設を視察しました。スウェーデンとは一変し、こちらは施設がメインです。どの施設も規模の大きいものでしたが、個々の生活がしっかりと大切にされている様子が印象的でした。
・Rildeharkscentret
・Rojieparken
・Sophilund
以上の視察報告を順次upしていく予定です。
これからもブログをご覧いただき、ご意見、ご感想などいただけましたら幸いです。
引き続き、スウェーデン(5ヶ所)とデンマーク(3ヶ所)の報告をしていく予定です。
スウェーデンでは、マルメ市で視察を行いました。
マルメ市は、スウェーデンの南端に位置する人口27万人の都市です。視察は8月29日にすべて行われ、以下の5ヶ所を訪問しました。
・マルメ市庁の住宅改修を扱う部門
・自宅で暮らす、足の不自由な高齢の女性(Liisaさん)
・年金受給者用住居に住む下半身付随の女性(Inglid さん)
・サービスハウスに住む高齢の女性(Marta Olssonさん)
・知的障害者のグループホームに住む女性(Gunlaugさん)
視察先はすべてマルメ市公認ガイドのテルトシコさんにアレンジしていただき、当日は同行・通訳もしていただきました。個人の住宅を多く訪問することができ、とても貴重な体験をすることができました。
デンマークでは、以下の施設を視察しました。スウェーデンとは一変し、こちらは施設がメインです。どの施設も規模の大きいものでしたが、個々の生活がしっかりと大切にされている様子が印象的でした。
・Rildeharkscentret
・Rojieparken
・Sophilund
以上の視察報告を順次upしていく予定です。
これからもブログをご覧いただき、ご意見、ご感想などいただけましたら幸いです。
2006年09月23日
視察報告(10)Kustaankartano(8/25訪問)
Kustaankartano
所在地 フィンランド ヘルシンキ市
訪問日時 2006年8月25日(金) 10:00~12:00
案内者 施設職員の女性
同行者 Arto Haapaniemi (Helsinki Polytechnicの教授)
Arto Jyrara (Helsinki Polytechnicの学生)
・入居者数 615人
・建築年次 1922年 (1996年~改修が行われる)
建物外観
1. サービス・ケアの提供体制
看護士及びその下で働くケアスタッフの人数は400人ほどである。各棟ごとに、3交代24時間体制でケアにあたる(7:00-13:30 13:30-21:00 21:00-7:00)。
医師は2人(常駐ではない)であるが、更に多くの医師が必要との話だった。
2. 入居者の状態
入居者の70%は認知症を伴う高齢者である。平均年齢は83歳、男女比率は男性2:女性8ある。夫婦での入居は、入居者615人中3,4組にとどまっている。このサービスハウスは終の棲家となる施設であり、入居者の平均入居期間(=入居から亡くなるまでの期間)は、平均で4.4年だという。
この施設では栄養管理面にとても気を使っていた。というのも過去に行われた調査で、入居のなかで栄養失調になってる人が多いことが判明した。それから提供される料理の栄養管理に力を入れたところ、ここ数年で入居できる人の制限が厳しくなったにもかかわらず、亡くなる人の数は減少したという。(3年前の調査では年に160人が亡くなっていたが、最近の調査では130人となっている。)
また、リハビリ施設としての利用もされている。
病院に長期入院していた高齢者が、在宅生活へ戻るために2,3ヶ月入居し、アクティビティを通して訓練を行うのである。
一入居者の居室
3. 建築的特徴
○全体配置
建物は合計8棟。入居者の状態により棟が分かれており、精神疾患をもつ人、身体的障害の重い人、それぞれの専用棟もある。レストランもあるが、普段入居者は各ユニットで食事をする。
敷地は手入れされた雑木林に囲まれている。1996年の改修の際には、外部空間に新たにパーゴラや、パーティやグリルができる場も設けられた。 訪れた際、車椅子で敷地内を散歩する人や、屋外でのアクティビティを目にした。
照明設計にも気を使っており、改修を行うごとに照明の質もどんどん良くなっているとのこと。
手入れが行き届いた、敷地を囲む雑木林
外部の活動場所
○共用空間
ユニット内のダイニングでは家にいるときのように食事ができるようにと工夫がされていた。自分で食べる場所を選択できるくらい、テーブルはゆったりと置かれている。食事も自分で鍋から取り分けるようにし、それが隣の人を手伝うなどの行動にもつながる。
共用空間には、スタッフの小さいころの写真が飾られていた。そして誰が何時に出勤するかが一目でわかるよう、ホワイトボードにカラフルに書かれていた。
認知症のユニットでは、テラスにある花の水やりなどの役割が与えられている。
ユニット内のホワイトボード。スタッフの出勤時間が書かれてある。
5. 考察
ここで特筆すべき点は、栄養失調についての調査が行われ、栄養についての研究とその成果があげられたことである。入居基準を抜かしても、約2割の年に亡くなる人が減少している。食事、栄養管理の重要さがわかる。
また強調していたのが、「家のように」、「家族のように」という言葉あった。
スタッフは「サービスする」という考えでなく、「共に住む」という考えをもっている。そのことが共用空間の写真や、ホワイトボードを見ても感じられた。
そして自然豊かな敷地を活かした設えが、居住者の外部での活動が促していると言える。
所在地 フィンランド ヘルシンキ市
訪問日時 2006年8月25日(金) 10:00~12:00
案内者 施設職員の女性
同行者 Arto Haapaniemi (Helsinki Polytechnicの教授)
Arto Jyrara (Helsinki Polytechnicの学生)
・入居者数 615人
・建築年次 1922年 (1996年~改修が行われる)
建物外観
1. サービス・ケアの提供体制
看護士及びその下で働くケアスタッフの人数は400人ほどである。各棟ごとに、3交代24時間体制でケアにあたる(7:00-13:30 13:30-21:00 21:00-7:00)。
医師は2人(常駐ではない)であるが、更に多くの医師が必要との話だった。
2. 入居者の状態
入居者の70%は認知症を伴う高齢者である。平均年齢は83歳、男女比率は男性2:女性8ある。夫婦での入居は、入居者615人中3,4組にとどまっている。このサービスハウスは終の棲家となる施設であり、入居者の平均入居期間(=入居から亡くなるまでの期間)は、平均で4.4年だという。
この施設では栄養管理面にとても気を使っていた。というのも過去に行われた調査で、入居のなかで栄養失調になってる人が多いことが判明した。それから提供される料理の栄養管理に力を入れたところ、ここ数年で入居できる人の制限が厳しくなったにもかかわらず、亡くなる人の数は減少したという。(3年前の調査では年に160人が亡くなっていたが、最近の調査では130人となっている。)
また、リハビリ施設としての利用もされている。
病院に長期入院していた高齢者が、在宅生活へ戻るために2,3ヶ月入居し、アクティビティを通して訓練を行うのである。
一入居者の居室
3. 建築的特徴
○全体配置
建物は合計8棟。入居者の状態により棟が分かれており、精神疾患をもつ人、身体的障害の重い人、それぞれの専用棟もある。レストランもあるが、普段入居者は各ユニットで食事をする。
敷地は手入れされた雑木林に囲まれている。1996年の改修の際には、外部空間に新たにパーゴラや、パーティやグリルができる場も設けられた。 訪れた際、車椅子で敷地内を散歩する人や、屋外でのアクティビティを目にした。
照明設計にも気を使っており、改修を行うごとに照明の質もどんどん良くなっているとのこと。
手入れが行き届いた、敷地を囲む雑木林
外部の活動場所
○共用空間
ユニット内のダイニングでは家にいるときのように食事ができるようにと工夫がされていた。自分で食べる場所を選択できるくらい、テーブルはゆったりと置かれている。食事も自分で鍋から取り分けるようにし、それが隣の人を手伝うなどの行動にもつながる。
共用空間には、スタッフの小さいころの写真が飾られていた。そして誰が何時に出勤するかが一目でわかるよう、ホワイトボードにカラフルに書かれていた。
認知症のユニットでは、テラスにある花の水やりなどの役割が与えられている。
ユニット内のホワイトボード。スタッフの出勤時間が書かれてある。
5. 考察
ここで特筆すべき点は、栄養失調についての調査が行われ、栄養についての研究とその成果があげられたことである。入居基準を抜かしても、約2割の年に亡くなる人が減少している。食事、栄養管理の重要さがわかる。
また強調していたのが、「家のように」、「家族のように」という言葉あった。
スタッフは「サービスする」という考えでなく、「共に住む」という考えをもっている。そのことが共用空間の写真や、ホワイトボードを見ても感じられた。
そして自然豊かな敷地を活かした設えが、居住者の外部での活動が促していると言える。
2006年09月20日
視察報告(9) CECILIA
CECILIA
所在地 フィンランド
訪問日時 2006年8月24日 13:30~
案内者 施設職員(看護士)の女性
同行者 Hilkka Tervaskari (FWBCフィンランド)
カードゲームに興じる入居者たち(サービスハウス 共用空間にて)
1. 施設概要
・居室の種類と入居者数: サービスハウス 約300名
グループホーム 0名 (空室)
・運営主体: 民間財団
2. サービス・ケアの提供体制
日中(8:00~16:00)は看護士5名、夜間も数名の看護師が待機し、24時間体制でサービスを提供している。
専属の医師はおらず、定期的に医師が診察へくる。しかし、施設から500mの距離にヘルスセンターがあり、無料で診療を受けることができるため、多くの人はこちらを利用する。
3. 入居者の状態
入居者のほとんどは、生活行為がほぼ自立している元気な高齢者である。やや身体が不自由でも、補助器具等を使いながら、自力で生活動作を行っている。一部には、ケアを必要とする人もいる。
年齢層は、65歳以上が入居条件(例外あり)で、90歳以上の人も多く入居しているという。
ここはサービスハウスであるため、ケアを提供するスタッフはいるものの入居者は日常的なケアを受けずに生活するのが一般的である。
仮に入居者が病によって身体が不自由になったり、認知症によって自分で生活を営むことができなくなった場合、長時間のケアが必要である。しかし、これらのケアをサービスハウスで受けるとなると、とても高額になる。そのため、こういった人々は退去し他の施設へ移るケースがほとんどだという。
ある入居者の室内。この部屋の住人は車イスを利用している。
4. 日中活動について
アクティビティ(入居者のための様々な活動)はグループを作って行われ、ウォーキングや、スポーツ、アート、歌、語学、詩など20ほどのグループがある。高齢者自身でグループが運営され、パーティ等も彼ら自身によって主催されることがある。
また、月に80人ほどのボランティアが訪れ、彼らの活動をサポートしている。ボランティアによって無料で行われるプログラム・催しもあるそうである。
レストランではパーティ用の料理やオーダーケーキも受けている。クリスマスに家族が訪れ、パーティをしていることもあるという。
CELILIAには、気軽に外部との接触が行える環境とアクティビティとがそろっている。楽しそうに外へ出かけていく姿が多く見られた。
5. 建築的特徴
・共用空間
全体で3棟に300人が入居しているが、その中心にエントランスがある。エントランス部分へ入ると、カフェやパソコンスペース、奥には催しや講義等が行える集会スペースがあった。午後にはカフェはいっぱいになるという。ここにいると高齢者の熱気あふれる活動が伝わってきた。
施設内のドアはすべて自動である。日本の電気スイッチを大きくしたようなボタンが壁についており、それを押すことによりドアが自動で開く。したがって車椅子であっても容易に移動できる。こうしたシステムは、フィンランド・スウェーデン・デンマークを通して広く普及していた。
施設内には自分の電動車椅子を充電しておいて置くことのできるスペースもあった。
高齢者住宅は、高い吹き抜けを持ち、多くの植物に覆われていた。吹き抜けを囲むように住戸が配置され、近くには共有空間が設けられている。私たちが訪れた際、入居者らはカードゲームに熱中する手を止め、気軽に声をかけてくれた。共用廊下には彼らの描いた絵が飾られていた。この吹き抜けによって、入居者は適度にお互いの気配や動きを感じることができる。
最上階には広々としたサウナが設けられていた。テラスに出ると、隣接する小学校から子供たちの声が聞こえてきた。
施設内には認知症高齢者のためのグループホームがあるが、空室のままであった。
・生活環境
施設の近くには公共のプール、図書館、コンサートホール、ショッピングセンターなどが集まっており、高齢者たちは気軽に出かけ楽しむことができる。とても便利な環境に位置しているといえる。
2人用居室の平面図。夫婦での入居も多い。
所在地 フィンランド
訪問日時 2006年8月24日 13:30~
案内者 施設職員(看護士)の女性
同行者 Hilkka Tervaskari (FWBCフィンランド)
カードゲームに興じる入居者たち(サービスハウス 共用空間にて)
1. 施設概要
・居室の種類と入居者数: サービスハウス 約300名
グループホーム 0名 (空室)
・運営主体: 民間財団
2. サービス・ケアの提供体制
日中(8:00~16:00)は看護士5名、夜間も数名の看護師が待機し、24時間体制でサービスを提供している。
専属の医師はおらず、定期的に医師が診察へくる。しかし、施設から500mの距離にヘルスセンターがあり、無料で診療を受けることができるため、多くの人はこちらを利用する。
3. 入居者の状態
入居者のほとんどは、生活行為がほぼ自立している元気な高齢者である。やや身体が不自由でも、補助器具等を使いながら、自力で生活動作を行っている。一部には、ケアを必要とする人もいる。
年齢層は、65歳以上が入居条件(例外あり)で、90歳以上の人も多く入居しているという。
ここはサービスハウスであるため、ケアを提供するスタッフはいるものの入居者は日常的なケアを受けずに生活するのが一般的である。
仮に入居者が病によって身体が不自由になったり、認知症によって自分で生活を営むことができなくなった場合、長時間のケアが必要である。しかし、これらのケアをサービスハウスで受けるとなると、とても高額になる。そのため、こういった人々は退去し他の施設へ移るケースがほとんどだという。
ある入居者の室内。この部屋の住人は車イスを利用している。
4. 日中活動について
アクティビティ(入居者のための様々な活動)はグループを作って行われ、ウォーキングや、スポーツ、アート、歌、語学、詩など20ほどのグループがある。高齢者自身でグループが運営され、パーティ等も彼ら自身によって主催されることがある。
また、月に80人ほどのボランティアが訪れ、彼らの活動をサポートしている。ボランティアによって無料で行われるプログラム・催しもあるそうである。
レストランではパーティ用の料理やオーダーケーキも受けている。クリスマスに家族が訪れ、パーティをしていることもあるという。
CELILIAには、気軽に外部との接触が行える環境とアクティビティとがそろっている。楽しそうに外へ出かけていく姿が多く見られた。
5. 建築的特徴
・共用空間
全体で3棟に300人が入居しているが、その中心にエントランスがある。エントランス部分へ入ると、カフェやパソコンスペース、奥には催しや講義等が行える集会スペースがあった。午後にはカフェはいっぱいになるという。ここにいると高齢者の熱気あふれる活動が伝わってきた。
施設内のドアはすべて自動である。日本の電気スイッチを大きくしたようなボタンが壁についており、それを押すことによりドアが自動で開く。したがって車椅子であっても容易に移動できる。こうしたシステムは、フィンランド・スウェーデン・デンマークを通して広く普及していた。
施設内には自分の電動車椅子を充電しておいて置くことのできるスペースもあった。
高齢者住宅は、高い吹き抜けを持ち、多くの植物に覆われていた。吹き抜けを囲むように住戸が配置され、近くには共有空間が設けられている。私たちが訪れた際、入居者らはカードゲームに熱中する手を止め、気軽に声をかけてくれた。共用廊下には彼らの描いた絵が飾られていた。この吹き抜けによって、入居者は適度にお互いの気配や動きを感じることができる。
最上階には広々としたサウナが設けられていた。テラスに出ると、隣接する小学校から子供たちの声が聞こえてきた。
施設内には認知症高齢者のためのグループホームがあるが、空室のままであった。
・生活環境
施設の近くには公共のプール、図書館、コンサートホール、ショッピングセンターなどが集まっており、高齢者たちは気軽に出かけ楽しむことができる。とても便利な環境に位置しているといえる。
2人用居室の平面図。夫婦での入居も多い。