2006年10月26日
視察報告(13) Ingrid Holmblad さん宅
所在地 スウェーデン マルメ市
訪問日時 2006年8月29日
同行者 テル・トシコさん(マルメ市公認ガイド)
リビング Ingridさんはこのイスに座っていることが多い
1. 概要
Ingridさんはマルメ市内で一人暮らしをしている女性である。
一昨年から半身不随になり、昨年からサービスハウスで一人暮らしをしている。
Ingridさんが住んでいるのはトッペン(「雄鶏」の意味)という名の施設である。ここは年金受給者(障害者や高齢者)を対象とした施設で、主に高齢者が入居している。
今回はこのサービスハウス内のIngridさんの部屋を訪れ、Ingridさんとそのアシスタントの陽子さんにお話を伺った。
2. 普段の生活の様子
Ingridさんは自力で移動するのが難しいため、身の回りの世話をするアシスタントを2人雇っている。彼女らが交代で毎日訪問し、朝8:30の起床から18:00の夕食の手伝いまでを行う。
アシスタントが帰った後、夕方から朝までの間は地域看護師(ヘムシェルズ)がケアにあたる。就寝前の着替え・歯磨き・ベッドへの移動などを手伝い、夜間の緊急呼び出しにも応じる。
機能回復のための運動にも前向きに取り組んでいる。週に1回、トレーニングをしに施設に通っている。また、毎日2回、玄関前の階段を上下する運動も欠かさない。Ingridさんは以前約半年間リハビリ施設に入居していたが、このアパートへ移ってから身体の状態が良くなったという。
引っ越してきた当時は自力で立つことは全くできなかったが、今ではイスから車イスへの移乗も1人ででき、わずかではあるが自力で歩けるようにもなった。
3. 政府からの援助
Ingridさんは、市から無料で提供される補助器具を大いに活用している。マルメ市では、キッチン用具からトイレ周りの手すりまで、あらゆる補助器具・道具を貸与・支給している。
Ingridさんは、リモコンで窓の開閉をできる機器が気に入ってると言っていた。アシスタントの陽子さんは、Ingridさんの身体の機能の状態にあわせて補助器具を取り替えている。動きの改善が見られたら、不要な補助器具を取り除き新しいものを取り入れる、という方針である。
住宅内部は、玄関を入ると広々とした短い廊下があり、車イスでも十分に通行・方向転換できるスペースが確保されていた。またリビング・寝室・キッチンもすべてゆったりと作られており、車イスでも全く問題を生じさせない広さの空間だった。
以前Ingridさんは室内の改修を申請したが認められず、トイレ入口の敷居を取り除く工事のみが行われた。
はさみ と フォーク+スプーン キッチン。車イスで使用できるようシンク下があいている
4. 考察
Ingridさんは、半身麻痺のため日常行為は自立していないが、自己決定によって自分の生活を描いていると言う点で十分に自立している。そして、少しずつ歩けるようになるなど、見事に機能を回復しつつある。
このように機能を回復できた背景には、アシスタントの存在がある。訪問時にいたアシスタントの陽子さんは、Ingridさんの身体機能の回復に全力で取り組んでいた。長時間そばにいる人が機能回復に対して理解があり、積極的であるということは、非常に重要な意味がある。
陽子さんは、週に一度派遣元の会社で講義を受け、機能回復のためにどのようなトレーニングが望ましいかなどを学んでいる。
小柄な陽子さんにとって、体格の大きなIngridさんの身体を支えて階段昇降の訓練等をサポートするのは肉体的に大きな負担だそうである。しかしIngridさんの懸命な努力を見ているからこそハードな訓練もサポートし続けられるのだろう。
さらに、政府から提供される補助器具を積極的に利用していることも機能が改善した大きな要因であろう。
陽子さんは、機能回復のために有効と思われる補助器具があれば、すぐに市へ申請し導入する。そして、身体の状態が良くなり器具が不要になればすぐに撤去し、次の段階に必要な器具を再び申請する。こうしたアシストがあるからこそ、Ingridさんは機能を回復しているのだと考えられる。
自力で起き上がるための器具 キャスター付きのイス。これに座ると楽に移動できる
上記二つはどちらも補助器具として無料で利用できる。
また、一人暮らしを継続するために、夜間のケアにあたる地域看護師の存在は大きい。
地域看護師とは、徒歩圏内の各地区にナースステーションがあり、そこにいる看護師が地域の医療を賄う、というシステムである。通常の診療の他に高齢者のケアを行う事が特徴である。高齢者の自宅からの呼びかけに応じ、自宅へ行って排泄の手伝いなどを行う。腕時計式の緊急用アラームも、このナースステーションへ繋がっている。ほとんどの地区で自宅から徒歩5分以内の距離にナースステーションがあるため、緊急時にもすぐに駆けつけてもらうことができ、安全網としての役割もある。
この地域看護師の体制が整っているからこそ、夜間も一人でいることができ、一人暮らしが継続できるのである。日本では、地域看護師という体制はない。昼間はヘルパーのケアが受けられるが、夜間の排泄等は家族に頼ることになり、一人暮らしは難しくなりがちである。
可能な限り自宅で住み続けるためには、夜間のケアが保障されていることが必要である。
訪問日時 2006年8月29日
同行者 テル・トシコさん(マルメ市公認ガイド)
リビング Ingridさんはこのイスに座っていることが多い
1. 概要
Ingridさんはマルメ市内で一人暮らしをしている女性である。
一昨年から半身不随になり、昨年からサービスハウスで一人暮らしをしている。
Ingridさんが住んでいるのはトッペン(「雄鶏」の意味)という名の施設である。ここは年金受給者(障害者や高齢者)を対象とした施設で、主に高齢者が入居している。
今回はこのサービスハウス内のIngridさんの部屋を訪れ、Ingridさんとそのアシスタントの陽子さんにお話を伺った。
2. 普段の生活の様子
Ingridさんは自力で移動するのが難しいため、身の回りの世話をするアシスタントを2人雇っている。彼女らが交代で毎日訪問し、朝8:30の起床から18:00の夕食の手伝いまでを行う。
アシスタントが帰った後、夕方から朝までの間は地域看護師(ヘムシェルズ)がケアにあたる。就寝前の着替え・歯磨き・ベッドへの移動などを手伝い、夜間の緊急呼び出しにも応じる。
機能回復のための運動にも前向きに取り組んでいる。週に1回、トレーニングをしに施設に通っている。また、毎日2回、玄関前の階段を上下する運動も欠かさない。Ingridさんは以前約半年間リハビリ施設に入居していたが、このアパートへ移ってから身体の状態が良くなったという。
引っ越してきた当時は自力で立つことは全くできなかったが、今ではイスから車イスへの移乗も1人ででき、わずかではあるが自力で歩けるようにもなった。
3. 政府からの援助
Ingridさんは、市から無料で提供される補助器具を大いに活用している。マルメ市では、キッチン用具からトイレ周りの手すりまで、あらゆる補助器具・道具を貸与・支給している。
Ingridさんは、リモコンで窓の開閉をできる機器が気に入ってると言っていた。アシスタントの陽子さんは、Ingridさんの身体の機能の状態にあわせて補助器具を取り替えている。動きの改善が見られたら、不要な補助器具を取り除き新しいものを取り入れる、という方針である。
住宅内部は、玄関を入ると広々とした短い廊下があり、車イスでも十分に通行・方向転換できるスペースが確保されていた。またリビング・寝室・キッチンもすべてゆったりと作られており、車イスでも全く問題を生じさせない広さの空間だった。
以前Ingridさんは室内の改修を申請したが認められず、トイレ入口の敷居を取り除く工事のみが行われた。
はさみ と フォーク+スプーン キッチン。車イスで使用できるようシンク下があいている
4. 考察
Ingridさんは、半身麻痺のため日常行為は自立していないが、自己決定によって自分の生活を描いていると言う点で十分に自立している。そして、少しずつ歩けるようになるなど、見事に機能を回復しつつある。
このように機能を回復できた背景には、アシスタントの存在がある。訪問時にいたアシスタントの陽子さんは、Ingridさんの身体機能の回復に全力で取り組んでいた。長時間そばにいる人が機能回復に対して理解があり、積極的であるということは、非常に重要な意味がある。
陽子さんは、週に一度派遣元の会社で講義を受け、機能回復のためにどのようなトレーニングが望ましいかなどを学んでいる。
小柄な陽子さんにとって、体格の大きなIngridさんの身体を支えて階段昇降の訓練等をサポートするのは肉体的に大きな負担だそうである。しかしIngridさんの懸命な努力を見ているからこそハードな訓練もサポートし続けられるのだろう。
さらに、政府から提供される補助器具を積極的に利用していることも機能が改善した大きな要因であろう。
陽子さんは、機能回復のために有効と思われる補助器具があれば、すぐに市へ申請し導入する。そして、身体の状態が良くなり器具が不要になればすぐに撤去し、次の段階に必要な器具を再び申請する。こうしたアシストがあるからこそ、Ingridさんは機能を回復しているのだと考えられる。
自力で起き上がるための器具 キャスター付きのイス。これに座ると楽に移動できる
上記二つはどちらも補助器具として無料で利用できる。
また、一人暮らしを継続するために、夜間のケアにあたる地域看護師の存在は大きい。
地域看護師とは、徒歩圏内の各地区にナースステーションがあり、そこにいる看護師が地域の医療を賄う、というシステムである。通常の診療の他に高齢者のケアを行う事が特徴である。高齢者の自宅からの呼びかけに応じ、自宅へ行って排泄の手伝いなどを行う。腕時計式の緊急用アラームも、このナースステーションへ繋がっている。ほとんどの地区で自宅から徒歩5分以内の距離にナースステーションがあるため、緊急時にもすぐに駆けつけてもらうことができ、安全網としての役割もある。
この地域看護師の体制が整っているからこそ、夜間も一人でいることができ、一人暮らしが継続できるのである。日本では、地域看護師という体制はない。昼間はヘルパーのケアが受けられるが、夜間の排泄等は家族に頼ることになり、一人暮らしは難しくなりがちである。
可能な限り自宅で住み続けるためには、夜間のケアが保障されていることが必要である。
Posted by aya at 06:05│Comments(0)
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